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家族信託は、認知症や相続の対策として効果的な選択肢の一つですが、失敗し後悔するケースも少なくありません。しかし、「家族信託は難しい」と考え、はじめから検討すらしないのは、もったいないことです。
ここでは、家族信託で失敗してしまった10ケースや、後悔しないためのポイントを解説していきます。
家族信託は危険?後悔する失敗例10選
家族信託は、認知症や相続における他の選択肢と比べて、自由度の高い財産管理・継承ができる点が魅力です。しかし、なかには家族信託の組成の仕方によっては失敗し後悔する人がいるのも事実です。よくある失敗例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 親族同士で険悪な雰囲気になった
- 認知症進行を理由に利用できなかった
- 信託できない財産があった
- 手続き費用が高額になってしまった
- 自分で手続きしてトラブルになった
- 想定外の税金がかかった
- 信託期間中に契約が終了してしまう
- 住宅ローンの一括返済を求められてしまった
- 損益通算ができなくなってしまった
- 遺留分を請求された
家族信託の組成時から組成後に起こる失敗例の順に、それぞれ見ていきましょう。
【1】親族同士で険悪な雰囲気になった
よくある失敗例の一つは、家族信託によって親族の仲が悪くなってしまうケースです。原因としては、契約の当事者でない人との話し合いを省いたまま、家族信託を進めてしまったことが挙げられます。
家族信託の契約は、財産の所有者である「受託者」と、管理を担う人である「受託者」の合意だけで成立してしまいます。一方で、受益権の移動や、信託が終了したときには、契約締結時に関わらなかった人に利益が発生し得ます。介護や同居生活中の家事を担う人、きょうだい間で過去に不公平があった人などからは、不満の声があがることもあるでしょう。
とくに、利益を害する可能性がある親族については、もともと険悪かどうかに関わらず、しっかり説明しておきたいところです。信託組成時から関係者全員と合意を得ながら進めることを意識しましょう。
【2】認知症進行を理由に利用できなかった
健康状態が悪化してから家族信託を始めるケースでは、せっかく契約の内容を決めたにも関わらず、家族信託を開始できない失敗があります。認知症の症状が先に進行してしまうと、契約締結時点で適切な判断ができないとみなされ、契約自体が行えず開始できないことが原因です。
民法では、病気や障がいの影響で判断能力が著しく不十分となったとき、意思能力がないものとして有効な契約を結べません。能力の有無は、身の回りの世話ができる状態であっても、医師および必要に応じて家裁が判断します。
家族信託による認知症対策は、余裕をもって進めることが大切です。できれば、リスクが高まるとされる65歳までに検討したいところです。
【3】信託できない財産があった
家族信託では信託財産を自由に指定できますが、なかには例外もあります。よくあるのは、年金や農地の管理を任せようとしたところ、家族信託はできないと言われてしまう場合です。
信託財産に含められないのは、「一身専属的な性質をもつ財産」と「法律で権利移転に制約が定められている財産」があります。本人一代かぎりとされる年金受給権や、農地法の管理を受ける土地のほか、銀行の預金口座も挙げられます。
家族信託を検討する際には、契約内容を細かく決める前に、そもそも信託できる財産なのかをしっかり確認する必要があります。
【4】手続き費用が高額になってしまった
家族信託は自分で手続きを行うこともできますが、司法書士や弁護士などの専門家に依頼することが一般的です。依頼にかかる費用は一律ではなく、事務所ごとに異なるため、相場よりも高額な費用になってしまうことがあります。
家族信託には、財産の規模にもよりますが、少なくとも50万円ほどの手続き費用がかかることが一般的です。管理を任せたい財産が少額である場合は、この費用を割高だと感じ、後悔してしまうこともあるでしょう。
家族信託は、契約内容や手続きのイメージが固まっていても、弁護士や司法書士の支援が必須です。その上、信託法に基づいてオーダーメイドの設計となる分、報酬は高めに設定されています。契約手続き自体にも、書面作成費用や、公証役場へ出張してもらう際の日当がかかることがあります。
家族信託は、平成18年の法改正によって始まった比較的新しい制度なので、専門家が少なく、割高になるのは避けられないことです。家族信託の契約を決める前に、費用に見合うメリットがあるかどうかについて検討しましょう。
【5】自分で手続きしてトラブルになった
家族信託の手続き費用を抑えるために、自分で手続きを進めようとした結果、トラブルが発生するケースがあります。トラブルの具体例としては、委託者が死亡したタイミングで信託終了としているのに、次の受益者が定められているなど契約書内で内容が矛盾しているケースが考えられます。
家族信託では、将来の見通しを踏まえつつ、本人や家族の希望を法律的な言葉に落とし込む作業が必要です。信託法や実例に詳しく、将来必要な権利の移動をケースバイケースで組み立てなければなりません。さらに、契約文書の作成方法も熟知しておく必要があります。
設計や書面の作例は多数ありますが、自分でできるだろうと手続きを進めてしまうのは禁物です。家族信託の手続きは複雑で、専門知識を要するため、原則として専門家に依頼して進めましょう。
【6】想定外の税金がかかった
ここからは、家族信託組成後における後悔した例を確認していきましょう。
家族信託の契約が完了したあとの失敗例として、予想しなかった課税に苦しむ場合があります。毎年贈与税や所得税がかかったり、信託が終了するときに想定以上の相続税がかかってしまうケースです。
家族信託の契約では、受益権や信託終了時の残余財産の帰属に対し、一定の課税があります。また、信託財産から利益が発生すると、申告しなければなりません。
契約を結ぶ前に専門家に相談し、どのくらいの支払いが必要になるか、またその支払いは誰に課せられるのか、課税の見込みについて把握しておきましょう。
【7】信託期間の途中で終了してしまう
家族信託の契約内容や法律の定めにより、途中で契約が終了してしまうことがあります。この場合、予定していた財産管理や承継もできなくなります。
たとえば、孫世代の特定の人に財産を承継させる目的で受益権の移動を行う契約では、受託者=受益者となる可能性があります。受託者と受益者が同一人物の場合、1年が経過すると、信託法の定めにより契約は無効となります。
大切なのは、信託契約の設計をする際、終了までに権利や立場がどう変化するのかシミュレーションしておくことです。このときも、専門家の支援が必要になるでしょう。
【8】住宅ローンの一括返済を求められてしまった
住宅ローン返済中にも関わらず信託不動産にしてしまうと、家族信託の開始後に金融機関から一括返済を求められる場合があります。これは住宅ローンを借りている最中には、抵当権が設定されているためです。
土地や建物に設定された抵当権は、基本的には住宅ローン返済が滞ったときに実行されます。実際には、滞納だけが原因とは限りません。信託契約などによって勝手に権利を変更することが「融資契約に違反している」とされて、競売にかけられる理由になることもあります。
不動産を信託しようとするときは、残高証明書などでローン返済状況を調べましょう。残高の繰り上げ返済が可能なら済ませて、抵当権を外しておくのが安全です。
【9】損益通算ができなくなってしまった
信託不動産における失敗として、赤字と利益を合算する「損益通算」ができないことに、家族信託が始まってから気づくケースがあります。家族信託の対象である建物の大規模修繕などで出費があると、税金で大きくなり損失が出てしまいます。
信託財産とほかの財産では、損益通算が認められていません。信託不動産から出た所得は例外的に損益通算できますが、一方の損失は「なかったもの」として税務上扱われると定められています。
資産を運用してもらう目的で信託する場合、出費や元本割れのときのことも考えておきましょう。赤字化する可能性がある財産の管理を任せたいときは、課税額をシミュレーションするなど注意が必要です。
【10】遺留分を請求された
家族信託の当事者でない親族から遺留分を請求されてしまうケースもあります。遺留分とは法定相続人が相続できる最低限の取り分(遺産)のことで、受益権や残余財産を得た人によって、遺産の取り分で著しく不公平になってしまうことが原因です。
信託期間中の相続発生は、判例はないものの、少なくとも一回目について遺留分問題が避けられないと考えられています。例として、委託者、子ども、孫の順で受益権が移る契約を考えてみましょう。この場合、委託者から受益権が移る段階で、他の子どもの遺留分が不足し、きょうだいの間で金銭の支払いを求める自体になる恐れがあります。
家族信託の契約では、信託財産から遺留分を外しておくなど、相続トラブルへの備えも必要です。親族同士の仲が悪くなる失敗例と合わせて確認しておくと良いでしょう。
家族信託で後悔しないためにできること
家族信託で後悔しないためのポイントとして、以下の4点を紹介します。
- 契約者が健康なうちに契約を結ぶ
- 契約者間で家族信託の必要性をよく考える
- 家族に情報共有をする
- 専門家に相談する
順番に見ていきましょう。
契約者が健康なうちに契約まで完了させる
家族信託の契約は、家族信託の契約者と想定している方が心身ともに健康なうちに済ませましょう。契約内容だけ先に決めて、いざとなったら手続きしようと考えても、そのときには認知症が進行してしまい、締結した契約が無効になってしまう恐れがあります。
認知症の発症リスクは65歳から上昇するため、65歳を目安に家族信託を検討しましょう。もし、直近で管理権が移動してしまうと困る財産があるときは信託財産から外すなど、早めに契約完了させるための手段を検討するとよいでしょう。
家族信託を本格的に検討すると、契約の原案作成の段階で多くの課題があることに気付くでしょう。遺言書作成は必要か、任意後見契約も必要か、税金を最小限にするにはどうしたらいいのか……などといった問題も考えていくために、十分な時間的余裕が必要です。
家族信託の必要性をよく考える
家族信託は、認知症による凍結をどうしても避けたい財産や、より確実に特定の人に渡るようにしたい財産があるときのための契約です。家族信託が必要な場合は限られており、それ以外の多くのケースは遺言書などで対応できます。
家族信託が必要なケースと、必要ないケースは、以下のとおりです。
必要なケース |
・認知症による財産凍結の対策を行いたい ・孫世代までの相続先を決めておきたい ・障がいをもつ子どもの生活を守りたい ・不動産を所有している |
必要ないケース |
・財産がほとんどない・信託ができない財産しかない ・親族間の仲が悪い ・高齢・認知症でない ・すでに資産譲渡が完了している |
不要なのに家族信託を始めると、費用が予想外にかかって無駄になったり、親族のあいだでトラブルが起きてしまったりするかもしれません。家族信託を契約するにあたって、本当に必要なのか、改めて親族間で話し合いをしておけるとよいでしょう。
家族に情報共有をする
家族信託の契約に踏み切る前に、内容についてしっかりと相続対象者や関係する家族間で情報共有しておきましょう。
とくに重要なのは、今後の財産の流れや、税金に関すること、受託者に任せる信託事務の内容です。信託財産や発生した利益がどうなるのか家族に説明しておけば、あとで「話が違う」とトラブルになる可能性を避けられます。赤字や想定外の出費についても、受託者と仕組みを共有しておけば、受託者側で必要な対策をしてくれると期待できます。
家族信託について話し合うときは「老後の身の回りの世話を誰がするべきか」もしっかり協議しましょう。身上監護に関しては、信託契約では定められず、あとで押し付け合いになってしまう可能性があるためです。
契約の設計から専門家に相談する
家族信託で「途中で終了してしまう」「契約が始まると、できるはずのことができない」などのトラブルを避けるなら、契約の設計段階から専門家に相談すると安心です。
専門家に相談すれば、成年後見制度や遺言書などといった他の方法とともに、これらの方法と信託契約を組み合わせた上での対策も練ってくれます。
家族信託は専門家に相談して失敗を防ごう
家族信託でよくある失敗例は、契約を思いついた時点から専門家のサポートを受けることで防げます。基本的には、早めの契約完了を心掛けて、仕組み・目的などについて当事者以外の親族ともよく相談しておくと良いでしょう。
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