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家族信託は、メリットとデメリットの両方を把握したうえで、慎重に検討しましょう。
老後の財産の管理処分ができたり、遺産の分割協議における負担を減らせたりといったメリットがある一方で、利用上の制限やトラブルの可能性といったデメリットもあります。
ここでは、家族信託で注意するべき13のデメリットを紹介します。メリットについても改めて紹介しているので、家族信託を検討する際の参考にしてください。
家族信託のデメリット
家族信託を検討するときは、以下の4つの複数の観点でデメリットを考えたいところです。
- 信託できる内容の制限
- 受託者の負担
- 親族間で相続トラブルになる可能性
- 費用や依頼先の問題
もう少し具体的に解説すると、これから解説する13のポイントに注意しなければなりません。
節税対策には使えない
家族信託は、認知症対策と遺言機能を組み合わせられる自由度の高い契約ですが、税対策にはなりません。信託財産あるいは受益権が移転したときには、相続税や贈与税の課税があります。以下に具体例を3つ紹介します。
■当事者の死亡により信託が終了した場合
親が委託者権受益者で、親の死亡が信託終了の事由となって子に財産が帰属したケースです。このケースでは、相続税が課税されます。
■当事者の合意により信託が終了した場合
「受託者と信託監督人が合意すれば終了する」というような条項を設けているケースです。この場合、信託財産の帰属先に贈与税が課税されます。
■受益権が移転した場合
委託者から配偶者、配偶者から子へと順に受益権(※)が移転するケースでは、受益権移転の条件に応じて相続税または贈与税が課税されます。受益権を譲渡した場合だと、無償なら贈与税、有償なら譲渡所得税の課税があります。
※受益権:投資信託や信託不動産によって得た利益を受益者が受け取ることのできる権利のこと
信託できない財産もある
家族信託の対象はどんなものでも良いわけではなく、信託できない財産もあります。信託できない財産の例として、以下のようなものが挙げられます。
■一身専属的な権利
婚姻・扶養の関係から生じる権利や、雇用関係に基づく地位・権利などは、委託者から他の誰かへと受け継がれることのない権利です。
■農地
不動産の中でも農地は、法律により農業委員会への届出が必要になる可能性があるため、
原則として信託できません。
■銀行の預金口座
銀行の預金口座は、開設時に譲渡禁止の約定が交わされるため、信託には組み込めません。ただし、預金口座内の残高であれば、信託口座を作って移転させることで信託できます。
信託できない財産として、ほかに「債務」も挙げられます。アパートローンあるいは住宅ローン返済中の不動産は注意しましょう。
「身上監護」には対応していない
家族信託にはさまざまな機能がありますが、身上監護はできません。財産の管理はできても、委託者の日常生活や医療機関受診のサポートはできません。したがって、病院での手続きや施設入居に関しては、後見制度を検討する必要があります。任意後見制度は、身上監護も目的とする成年後見制度のうち、元気なうちにあらかじめ後見人を定められる方法です。
受託者に管理責任が生じる
家族信託の受託者は、善良な管理者として注意を払う義務を負います。不注意や懈怠によって信託財産が損なわれたときは、受託者個人の財産で損害賠償しなければなりません。このときの受益者の責任は、上限のない「無限責任」とされます。
また、信託財産が第三者に損害を被らせた場合も、受託者は損害賠償しなくてはなりません。土地・建物を放置したせいで、災害発生時などに近隣に被害が出てしまうケースなどが考えられます。
信託財産は税務申告・収支報告の負担がある
信託財産について年間3万円以上の収益がある場合、翌年1月31日までに税務署へ提出しなければなりません。受益者への報告などの義務も課せられており、請求に応じて閲覧できるよう、一定の書類の作成および保管も必要です。全体で下記の書類を用意するため、受託者には相応の事務負担がかかります。
書類の種類 | 詳細 |
---|---|
帳簿作成・報告・保存の義務に関する書類 | ・信託財産にかかる収支を記載した帳簿 ・貸借対照表・損益計算書 |
収益の合計額が 年間3万円以上となったときの届出書類 |
・信託の計算書 ・信託の計算書合計表 |
信託財産に含まれる不動産から 収入がある場合 (確定申告用) |
・不動産所得の明細書 ・信託財産全体についての明細書 |
信託不動産が損益通算ができない
信託した不動産から生じた損失は、税務上「なかったもの」とされます。土地・建物について赤字が出ても、他の信託財産の利益と相殺できず、翌年に繰越すことも不可能です。
大規模修繕などで多額の出費が見込まれる場合は、そもそも不動産を信託してもいいのか検討したいところです。あらかじめ司法書士や税理士などの専門家と相談しておくと良いでしょう。
受託者が長期にわたり契約内容に拘束される
家族信託は長期に渡って受託者を拘束する恐れがあるため、本人とよく相談してから契約しなければなりません。
参考までに、認知症の発症から相続開始までの期間は5年から10年程度だといわれています。次の相続が起こるまでの信託期間まで定めると、さらに受託者が対応する予定の期間は伸びます。場合によっては、30年以上の期間にわたって効力が発生し、受託者の公私の生活に不都合が出るかもしれません。
受託者が権限を濫用する恐れがある
信託の目的や信託財産の内容にもよりますが、受託者の権限は非常に大きくなります。信頼できる家族と契約するとしても、委託者の意思に反する管理をされ、取り消せなくなるリスクは考慮したいところです。
信託期間が長くなるときや、受託者がまだ若く判断を誤る可能性が否めないときは、権利濫用を防ぐ方法を検討しましょう。具体的には、次のような方法です。
- 信託契約に権利を制限する条項を入れる
- 委託者に指図権を設定し、いつでも指示を出せるようにする
- 信託報酬を設定し、受託者の不満を解消できるようにする
- 士業に依頼し、信託監督人や受益者代理人に就任してもらう
親族の間でトラブルが発生する可能性がある
家族信託は、委託者と受託者が合意すれば契約成立となるものの、親族に説明なく行うのは不信に思われてしまいます。場合によっては、契約内容や信託財産の額を巡り、将来相続権を得る予定の「推定相続人」などとトラブルになる可能性があるかもしれません。
家族信託は将来の相続といった重要事項を取り扱うため、親族間でも揉めたり、不仲になったりすることがないように、十分に説明をして進めることが大切です。
家族信託では身上監護に対応できないと説明しましたが、信託しただけで「生活や介護の面倒に関しては何も決めなかった」ことが親族間トラブルの発端になることもあります。よくあるのは、老後の生活支援を押し付けあってしまう問題です。
遺留分侵害額請求の対象となる場合がある
民法の定めで権利を得る法定相続人には、遺言などに関わらず、最低限の取り分として遺留分が認められます。遺留分を侵害する内容で家族信託すると、受益者や信託財産の帰属先となる人が遺留分侵害額請求をされ、原則として金銭で負担しなければなりません。
遺留分対策として、一定の資金を信託財産から外しておいたり、生命保険に加入して請求を受ける可能性のある人を受取人としたりする方法があります。委託者から配偶者へ、配偶者から子どもへと受益権が移る契約では、少なくとも配偶者が受益者となる段階までは遺留分対策が必要です。
一定期間を過ぎると信託契約が無効となってしまうことがある
家族信託の終了事由は法律で定められており、その一つに「1年ルール」があります。受託者が受益権の全部を固有財産として得たとき、その状態が1年間継続すると、自動的に信託終了となってしまうルールです。
よくあるのは、委託者から配偶者へ、配偶者から子どもへと受益権が承継されていく「受益者連続型信託」で問題が起きるケースです。このようなケースでは、受託者と受益者が同一になってしまい、契約が無効になるリスクがあります。第二受託者を決めておくなど、柔軟に対応できる設計としなければなりません。
費用が高額になるリスクがある
家族信託は、財産の規模にもよりますが初期費用だけでも50万円以上が相場となります。信託開始後も、設計しだいで継続的な費用の負担があります。
家族信託の 初期費用としてかかるもの (一例) |
・信託契約のコンサルティング費用 ・契約締結の代行、書類作成のための報酬 ・信託不動産の登記費用 |
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信託中に 継続的にかかる費用 (契約で定めた場合) |
・受託者に支払う信託報酬 ・信託 ・信託監督人(司法書士や弁護士)に支払う報酬 |
生前対策に求めることや、相続法などで定められる他の制度と比べながら、本当に信託が必要なのか検討しましょう。
家族信託を熟知した専門家が少ない
家族信託は、平成13年の法改正によって可能になった比較的新しい制度で、利用実績が少なく、経験・知識共に豊富な士業が見つかりにくい問題があります。トラブル発生時の対応方法に加え、税務上の処理の方法も、完全に確立されたとは言えません。
家族信託について依頼・相談するときは、司法書士のような士業や家族信託サービスを専門に扱っている企業などを選びましょう。これまで説明したデメリットについても、適切なサービスを選ぶことで、アドバイスや具体的な提案を受けられることがありますので、気になることがあればまずは資料請求や相談をしてみるとよいでしょう。
家族信託のメリット
ここまでは家族信託のデメリットについて解説しました。
続いて、家族信託のメリットを改めてみていきましょう。家族信託は、メリットとデメリットの両方を理解したうえで検討することが重要です。
とくに、高額資産があり、認知症対策や遺産相続への備えがしたい場合なら、積極的に検討したいところです。
認知症になっても財産の管理処分を途切れなく行える
認知症などの影響で判断能力が一定以下まで低下すると、財産の管理・処分に関するあらゆる行為が法律上無効になります。だからといって、権限のない家族が代わりに管理するのは認められません。このようなケースで何の対策も講じなかった場合、財産が凍結されてしまいます。
元気なうちに家族信託を締結しておけば、預貯金や各種契約をあらかじめ受託者の管理下に置くことで、万一の認知症発症時も途切れることなく扱えます。預金口座からお金を下ろせない・不動産の大規模修繕ができないなどといった、生活や投資活動に支障をきたす可能性を避けられます。
遺産分割協議による相続人の負担を軽減できる
家族信託は、終了したときの財産の帰属先をあらかじめ指定することで、相続手続きのための負担を軽減できます。たとえば「委託者である親が亡くなったときに信託が終了し、残余財産は子どもに帰属する」といった条項を設ける場合があります。
遺産をどう受け継ぐか決めないまま相続が発生すると、遺産分割協議を行う必要があり、手続きが複雑になります。取り分について主張が対立し、トラブルにならないとも限りません。遺言の代わりとなるよう意識して信託契約を締結することで、上記のような事態を避けられます。
任意後見制度よりも財産管理の自由度が高い
家族信託とよく似た認知症対策になる手段が「成年後見制度」です。しかし、成年後見人制度では、財産の管理・処分を担うにあたって本人の保護を最優先にするため、元気なときに希望していた一定のリスクのある行為が認められないという問題があります。
あらかじめ家族信託を契約しておけば、途切れなく財産管理を行えるだけでなく、本人の利益を損ねない範囲で自由な判断ができます。具体的には「自宅の修繕やリフォームを行う」といったものや、「信託財産を使って投資活動を行う」といった内容も認められます。
共有不動産・共有相続によるリスクを回避できる
家族信託の他のメリットとして、相続で土地・建物が共有状態になったときのリスクを避けられる点があります。
共益状態になったときのリスクとは、持分を保有する人の一部が認知症を発症してしまったり、連絡がとれなくなってしまった場合に、売却・修繕・リフォームなどの対応ができなくなるリスクです。
家族信託では、不動産について「管理する人」と「利益を得る人」を分けることで、取り分を公平にしつつ共有を避けられます。自宅マンションなどであれば、子どもが受託者として管理し、住むなどの権利は受益権として他の家族に設定することができます。信託終了時には、子どもが単独で財産を得るものとすれば問題ありません。
事業承継対策でも活用可能
家族信託の活用方法として、家業や経営する会社をスムーズに譲る目的での利用が挙げられます。自社株式・店舗・営業車両などを信託財産にして、他の相続人のために配当を受益権としつつ、後継者の手に上記資産が渡るような設計です。
さらに、家族信託で事業承継対策するメリットとして、指図権を使って段階的に譲れる特徴があります。今の経営者が元気なうちは、受託者である後継者に指示を出し、信託終了までに後継者がひとりで適切な判断ができるように育てることが可能です。
家族信託のデメリットを理解すれば有効活用できる
家族信託のデメリットとして、税務・信託期間などによる受託者の負担や、親族間で遺留分などを巡りトラブルになる可能性はできるだけ念頭におきたいものです。そもそも信託できない、適切な専門家が見つからない、費用が高額化するといった苦労に見舞われる場合もあります。
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