家族信託の提案を子から親に切り出すときの5つのコツ

2024.05.13

家族信託は、委託者の認知症などに備えて信頼できる方へ財産管理を任せる制度です。親御様が委託者となったうえで、お子様などを受託者とする形が一般的ですが、もし親御様に家族信託を検討してもらいたい場合、どのように話を切り出せば良いのでしょうか。

突然の提案では、勘違いからトラブルに発展する可能性もあります。一方で、話し合いが長引いてしまうと親御様の認知機能の低下が進んでしまい、意思能力がないことを理由に信託契約に至れない事態にもなりかねません。

ここでは、お子様と親御様で家族信託の話し合いをスムーズに進めるための切り出し方や、事前に理解しておきたいポイントを解説します。

親に家族信託の話を切り出す際のポイント

親御様に家族信託の話を切り出す際は、相手を混乱させてしまわないためにも、いくつか気を付けたいポイントがあります。大前提として、兄弟姉妹など当事者以外のご親族にも相談し、家族信託の意向を固めておくことが大切です。信託契約は財産の管理だけでなく承継にも関わることであり、ほかに相続権を有する方に知らせないまま話を進めると、後々ご親族でトラブルに発展する恐れもあります。

ご親族同士の仲があまり良好でない場合は、家族信託を検討する段階から司法書士や家族信託サービスの提供会社に仲介してもらうのが良いでしょう。専門家が間に入ることで、公平な立場から話し合いを進められ、感情的なもつれを避けられます。

【監修者からひとこと】
とくに、親御様から見て推定相続人(将来、相続人として遺産を受け継ぐ権利を持つ人)の関係にある人の理解は欠かせません。理解がないまま家族信託を始めると、遺留分侵害があるとして訴訟を提起されるなど、ややこしい問題が起きる恐れがあります。

急に家族信託の話から始めない

親御様に家族信託を提案する際、突然本題から切り出すのは避けましょう。何の前触れもなく家族信託への同意をお願いされると、親御様を戸惑わせてしまうだけでなく、場合により財産をもらうことが目的だと勘違いされてしまう可能性もゼロではありません。

家族信託はあくまでもご家族の将来への不安を解消するための手段であり、目的を達成するための選択肢の一つです。まずは親御様の将来への不安や望みを聞き、それを叶えるための方法の一つとして家族信託を提案してみましょう。お子様ご自身の健康の話や防災の話、ご自宅のバリアフリーリフォームなどの周辺の話題から、将来の話につなげるのも良いかもしれません。

親の意向を確認する

家族信託を提案する際は、親御様の意向を確認することが必要不可欠です。お子様(受託者)側が一方的に家族信託の必要性を訴えても、すぐに理解を得るのは難しいかもしれません。親御様の意向として確認したいのは、大きく以下2つの項目です。

  1. 老後どのように暮らしたいか・理想とするゴールは何か
  2. 理想のゴールに向けてお金の管理はどのように行うか(家族のサポートが必要か)

意向を聞き取れたら、実現するためにお金の管理をどのように行いたいかを尋ねてみましょう。ご家族だけでの管理を望むのか、弁護士や司法書士などといった第三者を入れてもよいのか、当事者について確認をとっておくのも重要なポイントです。

上記の聞き取り内容を受け、「家族信託と後見人制度のどちらが意向に近いのか」のように段階的に判断を進めると、お互い納得できる方法に辿り着きやすくなります。

「認知症対策」という言葉を使うのを避ける

家族信託を提案するときは、認知症対策という言葉の使用を控えましょう。親御様は、ご自分が高齢になっていることを受け入れがたく感じているかもしれないためです。安易に、認知症対策のために家族信託が必要だと提案してしまうと、「自分が認知症になると思っている」と捉えられ、話し合いが中断される可能性もあります。

家族信託の切り出し方としては、脳梗塞や心筋梗塞などの体の病気など急病になったときの話のほうがアプローチしやすいです。「自分で動けなくなったときに備えて、安心できる財産管理の方法を一緒に考えよう」といった言い回しなら、抵抗感を抱かせることなく話し合いに応じてもらえるでしょう。

「親のため」ということを伝える

話を進めるうえで重要なのは、親御様を思っての提案であるとしっかり伝えることです。ご親族が自分たちの都合ばかりを優先し、「将来的に困るのは家族(自分たち)だから」という言い方を選ぶことは避けなければなりません。親御様の立場からすれば、申し訳なさや苛立ちが先行してしまい、最悪の場合は話し合いを打ち切られてしまうでしょう。

大切なご家族にまず伝えたいのは、「万が一のことがあっても、安心して暮らしてもらえるように準備をしたい」という気持ちです。このような思いやりの姿勢が伝われば、前向きに対応してもらいやすくなります。

親が元気なうちに話し合いをする

親御様に家族信託を提案するタイミングは、お体が元気で、判断能力が十分にあるあいだです。

認知症の兆候や身体機能に問題などが出てから家族信託を切り出すと、時間経過による進行を懸念して焦ってしまい、かえって話し合いが長引くかもしれません。実際に、話し合っているうちに認知症が進行して、契約の要件として求められる「意思能力」がなくなり、信託契約の締結まで辿り着けなかったケースもあります。


ご家族だけで話し合いを進めるのが不安だったり、提案方法に迷ったりする場合には、専門家を交えるのも一つの手段です。信頼できる第三者がいることで、心理的抵抗や意見衝突を避けやすくなり、冷静かつ着実に話し合いを進められるようになるでしょう。

東京ガスが提携する家族信託サービス企業「ファミトラ」では、専門家と連携し家族信託組成をサポートしています。親御様含むご親族と円滑に話し合いを進めたい方は、活用を検討してみてください。

話し合いをするうえで押さえておきたい家族信託のポイント

家族信託の切り出し方が適切であっても、制度への理解が十分でなければ、親御様から理解や了承を得るのは難しいでしょう。契約締結に向けて本格的に話を進めるには、制度のメリット・デメリットや、契約手続きに関する知識がある程度必要です。

ここからは、家族信託の話し合いをするうえで知っておきたいポイントを解説します。

制度としての特徴

家族信託は、認知症や相続に備えたい方が委託者となり、信頼できるご家族などに財産管理を任せる制度です。信託契約によって管理方法や受託者の権限を定められるため、ご本人の意思を柔軟に反映できるのが特徴といえます。

また、遺言とは異なり、一時相続だけでなく二次相続(一時相続の受益者が死亡した場合の次の受益者)まで設定が可能です。このため相続対策としても有効で、受益権や信託終了時の取り決めなどを契約内容に盛り込めば、万が一のときも財産管理をスムーズに継承できます。

ただし、家族信託にはデメリットもあることを念頭に置いておきましょう。たとえば、受託者が長期にわたって税務に拘束されたり、契約内容や方法次第でトラブルが起こるリスクがあったりする点には注意が必要です。

契約開始や信託財産登記のためには相当額の初期投資が生じることも踏まえ、メリット・デメリットの両方をしっかり理解しておく必要があります。

契約における手続き

家族信託の契約手続きは自分で行うことも可能ですが、信託法・税法・不動産登記法・契約文書の作成方法など、複数分野の専門知識が求められます。そのため、弁護士や司法書士をはじめとした専門家に依頼し、契約内容のコンサルティングから信託契約書作成までを依頼するのが一般的です。

専門家へ依頼することで、ご家族自身で手続きを進める負担を減らせるだけでなく、信託の目的を明確にし、契約までスムーズに進められる利点もあります。家族信託のメリットを最大限に活かすためにも、経験豊富な専門家のサポートを受けることを検討してみてはいかがでしょうか。



認知症になってからでは信託契約はできない

家族信託は、当事者である委託者と受託者の契約に基づくものです。このため、当事者のいずれかが民法で定める「意思能力」を失っていると、有効な契約は結べません。

委託者である親御様の認知症が進行し、適切に判断できない状態になっていると、契約などの法律行為が不可能となる可能性があります。なお、認知症による契約の可否を判断するのは、医者ではなく公正証書の作成に関わる公証人です。

すでに認知症と診断されてから時間が経っている場合、まずは家族信託の専門家に相談すると良いでしょう。症状や信託契約書作成の実例から、さまざまな観点で有効な契約が結べるかどうかをアドバイスしてもらえます。

そのうえで、「判断能力が十分ではなく信託契約は不可能」と判断されたときは、成年後見制度(法定後見)の利用を視野に入れましょう。委託者の財産管理および生活の支援を行える成年後見人を家庭裁判所に選んでもらえる制度で、認知症が進行した方の支援として活用できます。

【監修者からひとこと】
成年後見制度を利用する際は、家庭裁判所で申立てし、約1か月ほど経って後見人が選任されるまで待つ必要があります。後見制度では柔軟な財産管理が難しく、元気だったときのような維持・管理・運用ができない可能性が大きいと言えます。家族信託の検討は早めに行いましょう。

状況を踏まえて家族信託の話を切り出そう

家族信託は、親御様の老後の安心につながる有効な財産管理の手段ですが、話の切り出し方によってはお金目当てのように捉えられ、戸惑わせてしまうこともあります。

話し合いでは認知症対策という言葉を避けつつ、あくまでも親御様のために提案していることを伝えて、意向を聞き取りましょう。トラブルを防ぐためにもあらかじめご親族の確認を得ておくこと、さらに親御様が元気なうちに話し合いを始めることが重要です。

また、話し合いをスムーズに進めるには、家族信託の特徴や手続きについてご自身で理解しておく必要があります。東京ガスと提携している「ファミトラ」は、家族信託組成を支援するコンサルティングサービスを提供しています。以下のページで資料請求を受け付けているため、家族信託の切り出し方で悩んだり、話しにくい・気が重いと感じたりしている方は確認してみてはいかがでしょうか。

遠藤 秋乃

執筆者

遠藤 秋乃
司法書士/行政書士/ライター

大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。
転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。
2017年に退社後フリーライターへ転身し、現在も活動中。
培ってきた知識や相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応した経験をもとに、原稿執筆を行う。

SNS:https://twitter.com/akino_endo

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