家族信託は必要ない?不要・必要なケースをそれぞれ解説

2024.03.25

信託契約を結んだ受託者に財産を管理運用してもらう家族信託は、比較的自由度の高い生前対策として注目されています。しかし、どのような場合でも家族信託が必要なわけではありません。費用対効果が薄く、状況によっては必要ないケースもあります。

ここでは、家族信託の必要・不要を判断できるよう、それぞれ4つのケースを紹介します。自分にとって家族信託が必要かどうか、判断する際の参考にしてみてください。

また、家族信託そのものについて知りたい方は、こちらのページで詳しく解説しています。

家族信託が必要ない4つのケース

家族信託は、自身が認知症で判断力を失ったあとも、自身の意図を汲む形で財産を管理・運用することができる方法です。しかし、一般的に高額な費用や手間がかかるため、家族信託が必要のないケースも少なくありません

以下のようなケースでは、遺言や後見人制度など、他の方法を検討したほうが良いでしょう。

家族信託が必要ないケース 不要な理由
【1】重要な高額財産がない ・高額な財産がないと費用対効果がない
・そもそも信託できない財産がある
【2】親族間の仲が悪い ・いっそう反発を招く可能性大
・遺留分問題のリスク回避にはならない
【3】高齢でない・認知症リスクも低い ・契約時点で自由な財産管理ができなくなる
・既存の制度で対策するための十分な時間がある
【4】すでの資産譲渡が完了している ・所有権自体の移動が終わっている
・権利に基づいて自由に管理・処分してもらえる

【1】重要な高額財産がない

家族信託の対象にできる財産はさまざまですが、住まいや収益物件などの高額財産がなければ、無理に家族信託する必要はありません。「自宅と預貯金だけ」といった一般的な資産構成なら、遺言書や後見制度で十分対応できます。

また、財産のなかには、そもそも信託できないものもあります。委託しようとする人が一代限り所有するものや、農地法などの特別な法律の規制対象となるものは信託できません。

<信託できる財産の一例>

  • 現金
  • 自動車
  • 不動産(土地、建物、賃借権など)
  • 有価証券
  • ペット

<信託できない財産の一例>

  • 債務・連帯保証
  • 年金受給権
  • 生活保護受給権
  • 農地

考えておきたいのが、家族信託の費用対効果です。信託契約を締結するときは専門家に依頼するのが一般的ですが、初期費用だけでも50万〜100万円程度かかります。この点、遺言制度などの既存の方法であれば、よほど高くても10万円以内に収まるのが普通です。

家族信託の費用について、下記の記事で詳しく解説しています。契約について弁護士などに相談する前に確認しておきたい人は、参考にしてみてください。

【監修者からひとこと】
家族信託の専門家報酬は、コンサルティング費用として信託財産の評価額の1%~3%、これに契約書作成および登記費用として20万円~25万円程度を加えた額となるのが一般的です。

【2】親族間の仲が悪い

家族信託は当事者の合意だけで成立してしまうため、親族間の仲が悪いときは契約に慎重になったほうがいいでしょう。直接影響がなくても「なぜ言ってくれなかったのだろう」と不満を抱かれ、トラブルになる可能性が大きいためです。

また、家族信託によって、あまり仲の良くない親族の将来の利益を目減りさせてしまった場合も、訴訟などのトラブルにつながる場合があります。

【3】高齢でない・認知症リスクも低い

まだ相続開始まで時間があり、認知症の兆候もとくにないときは、家族信託を契約する必要はありません

家族信託は、契約を締結したときから効力が発生します。高齢でないにもかかわらず信託契約を結ぶと、財産を自由に動かすことができなくなり、かえって不利益になる恐れがあります。老後資金と信託財産を分けることもできますが、信託の方針・目的が今後変わらないとも限りません。

目安として、40代から50代までの年齢であれば、万一に備えて遺言書を作成しておく程度でよいでしょう。健康不安や、65歳以上と言われる認知症リスクが問題になりそうなら、追加で任意後見制度などを活用し、後見人を決めておく方法も検討できます。

時間にゆとりがあれば、これらの信託より手続き負担の少ない制度で準備できます。

【4】すでに資産譲渡が完了している

生前贈与などで譲渡が完了しており、贈与分で介護費用などを賄えるだけの金額があるのであれば、家族信託は必要ありません。生前贈与は移転した所有権を行使して、子どもや孫が自主的に財産管理できるためです。

家族信託と生前贈与では権利関係が根本的に異なるため、それぞれのしくみは理解しておきましょう。たとえば、生前贈与だと「元の所有者やその配偶者のために財産を使ってもらう」といった定めは難しくなります。主な違いは下の表の通りです。

比較項目 家族信託 生前贈与
所有権 元の所有者
(委託者)
財産を受け取った人
(受贈者)
財産を管理する権利 管理を任された人
(受託者)
財産を受け取った人
(同上)
財産管理に関する指図権 委託者に権利を設定できる 権利設定はできない
財産から利益を得る権利 合意で定めた受益者
(委託者以外でも可)
財産を受け取った人
(受贈者)
かかる税金 ・贈与税(※)
・相続税
・登録免許税
・贈与税
・不動産取得税
・登録免許税

※委託者と受託者が異なる場合に課税対象となる

状況によっては家族信託がうまくいかなかった、と後悔してしまう場合もあります。実際どういったポイントに悩んだか、気になる方はこちらのページも合わせてご確認ください。

家族信託が必要な4つのケース

続いて、家族信託が必要なケースを見ていきましょう。家族信託が必要なのは、住まいや生活資金・そのほかの重要な資産について、認知症対策や障がいのある子どもの親なき後問題への対応が必要なケースです。また、孫世代まで一括して承継先を決めたいときも有効です。

家族信託が必要なケース 必要な理由
【1】認知症による財産凍結を防ぎたい ・財産凍結のデメリットが大きい
・任意後見制度では不十分になりがち
【2】二次相続まで承継先を決めたい ・遺言制度は不十分
・二次相続以降も遺留分対策が必要
【3】障がいのある子どもの生活を守りたい ・支援のバトンタッチが難しい
・将来の財産の帰属先の定めも必要
【4】不動産を所有している ・財産凍結のデメリットがより大きい
・遺留分対策が必要になることが多い

【1】認知症による財産凍結を防ぎたい

認知症により判断能力が低下すると、実質的に財産が凍結されてしまうおそれがあります。意思能力のない人による法律行為は有効でなく、近親者というだけでは代わりに管理・処分を行うことも認められないためです。

そこでおすすめできるのが、次のような内容の家族信託です。認知症発症による判断能力が低下したあとも、生活資金や不動産経営が途切れなく行えるようになります。

■認知症による財産凍結対策の例

  • 委託者:親
  • 受託者:子ども
  • 受益者:親
  • 信託財産:自宅そのほかの不動産+現金
  • 信託期間:親が死亡するまで
  • 信託終了時の財産の帰属先:子ども

【監修者からひとこと】
多額の費用をかけてでも家族信託で凍結を避けるべき財産として、オーナー社長が有する自社の株式や、賃貸物件などが挙げられます。自社の議決権が行使できなくなったり、物件管理に関する契約が結べなくなったりすると、ごく一時的であっても多額の損失が出る恐れがあります。

【2】孫世代までの承継先を決めておきたい

遺言書による遺産承継先の指定は、自分が死亡したときに限られます。一方の家族信託は、自分だけでなく、配偶者や子が亡くなったあとの承継先まで「受益者連続型信託」と呼ばれる内容で指定できます

下記の契約内容の例は、特定の子どもの家系に財産を承継させる例です。指定された受託者かつ第三受益者である長男について、その兄弟姉妹からの遺留分侵害額請求の対策も出来ています。

■受益者連続信託の契約内容の例

  • 委託者:祖父
  • 受託者:長男(予備的に孫)
  • 第一受益者:祖父
  • 第二受益者:祖母
  • 第三受益者:子(祖父母の長男)
  • 第四受益者:孫(長男の子)
  • 信託財産:賃貸経営中の不動産+事業資金
  • 信託期間:祖父母の死亡後、長男の死亡または信託監督人との合意があったとき
  • 信託終了時の財産の帰属先:孫

【3】障がいのある子どもの生活を守りたい

障がいのある子どもを支える家庭では、将来の住まいや生活資金で困りごとが発生する「親なき後問題」があります。支援者がいなくなるため、親から相続した財産を自分で管理できないばかりか、施設入所や入院・通院もできなくなる問題です。

家族信託を活用すると、支援が必要なくなったあとの二次相続を含めて「福祉型信託」と呼ばれる内容で解決できます。下記がその例です。信頼できる親族を委託者として、子どもが亡くなったあとの寄附まで折り込んだ内容です。

■福祉型信託の契約内容の例

  • 委託者:現在の支援者である親
  • 受託者:支援の引継ぎに同意する親族
  • 受益者:障がいのある子ども
  • 信託財産:自宅+預貯金
  • 信託期間:子どもが死亡したとき
  • 信託終了時の財産の帰属先:お世話になった福祉施設

※適切に支援を続けられるよう、士業に信託監督人を依頼するのが一般的です。

【4】不動産を所有している

認知症対策や遺言の代用としての家族信託は、不動産を所有しており、将来起こる問題への対策をしたい場合にとくに有効です。

土地や建物があると、その性質や価額のせいでトラブルが起きがちです。これまで解説したさまざまなタイプの信託契約を適宜選んで設計することで、次のようなメリットが得られます。

  • 配偶者や子どもの住まいを、将来にわたって確保できる
  • 認知症になっても、土地・建物の修繕計画を滞りなく進められる
  • 賃貸物件は賃料収入を受益権に変え、遺留分確保などに使える

家族信託の必要性は対象者の状況に応じて検討しよう

家族信託は、重要な高額資産がとくになかったり、まだ年齢が若かったりする場合は、無理に検討する必要はありません。親族同士の仲があまり良くないケースでは、むしろ控えたほうが良いでしょう。

一方で、認知症の親族や障がいのある子どもを支援しているケースや、認知症による財産凍結を避けたい事情があるときは、生前対策として家族信託が視野に入ります。

家族信託を契約する際は、司法書士のような士業のほか、家族信託をサービスとして専門に扱っている企業に依頼するとスムーズです。

東京ガスが提携する家族信託サービスの「ファミトラ」では、独自の信託システムによって低価格で利用できるとともに、丁寧なカウンセリングでお客さまにあったプランの提案が可能です。

2万件以上の相談実績もあるため、信託について不安なことがあればお気軽に資料請求をしてみましょう。

依頼先の候補や自分で手続きする際の流れについては、以下のページでも詳しく解説していますので、チェックしてみてください。


遠藤 秋乃

執筆者

遠藤 秋乃
司法書士/行政書士/ライター

大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。
転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。
2017年に退社後フリーライターへ転身し、現在も活動中。
培ってきた知識や相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応した経験をもとに、原稿執筆を行う。

SNS:https://twitter.com/akino_endo

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