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人生100年時代において、長生きに備えたマネープランを立てる必要があります。定年後の人生が延びると、定年前に得た資産を取り崩しながら暮らす年月も長くなります。これまで形成してきた資産が尽きてしまうまでの期間である資産寿命は、心と身体の健康寿命を延ばすうえで重要です。
金銭面の強い不安は、心身の健康を損なう要因になりうるため、ストレスの芽を早めに摘んでおきたいものです。自分自身のセカンドライフを具体的に思い描き、自分に合ったお金との付き合い方を考えることから始めましょう。
定年後の生活に必要なお金
定年後に貯蓄残高がマイナスに陥らないよう、定年後に備えて今から100歳までの収入と支出を明らかにしておき、家計のキャッシュフロー表を作成しておくと安心です。貯蓄残高の推移を把握して枯渇しないよう事前に対策を講じることにより、定年時までに必要な貯蓄残高も明らかになります。
それでは定年後、毎月どのくらいの支出となるのか、見ていきましょう。
生活費
夫婦ともに65歳以上の無職世帯(夫婦のみ)において、1か月の平均生活費は約22万円、65歳以上の無職世帯(単身)では月額約13万円です。生活費とは、住居費と子の教育費を除いた金額になるため、賃貸の場合には「家賃」、持ち家の場合には「固定資産税と管理費・修繕費など」を別途加算します。なお、定年後に学生の子がいる場合は、教育費も加算して毎月の支出を把握しましょう。
定年後の生活費については、以下の記事で詳しく解説しています。
特別な支出
特別に生じる支出については、事前に想定しておきましょう。たとえば、家電や家具、車の買い替え費用・自宅のリフォーム代・レジャー費・冠婚葬祭の費用・子の結婚資金援助・孫のお祝いなどの支出は、突発的に発生するように思えますが、あらかじめ見積もることができます。
医療費
厚生労働省の『年齢階級別1人当たり医療費、自己負担額及び保険料の比較(PDF)』によると、1人あたりの医療費月額は、自己負担として65歳以上で平均7,000円程度かかるとされています。個人差があるものの、概ね1世帯(夫婦のみ)あたり月額1万5,000円と見積もっておきましょう。ただし、保険適用外の費用が別途必要になります。
介護費
介護費は、公的介護保険による要介護度の認定や本人の合計所得金額によって1か月あたりに受けられる介護サービスの上限額とサービスを利用する際の自己負担額が変わります。この公的介護保険を利用したときの1人あたりの介護費月額は、在宅介護のケースで平均5万円程度が自己負担でかかるとされています。
介護度が要介護3より上がると、公的介護保険の支給限度額を超えて発生する費用が増えるので、在宅より高齢者施設に入居する方が介護費を安く抑えられるケースもあります。
公益社団法人生命保険文化センターの『生命保険に関する全国実態調査』によると、介護期間は平均5年1か月、住宅改造や介護用ベッドの購入費などの一時的な費用の合計は平均74万円、月額費用は平均8万3,000円となっているため、1人あたりの介護費総額の目安を580万円として準備するとよいでしょう。
定年後に生活費をまかなうお金
定年後の主な収入は公的年金です。公的年金は終身で受け取れますが、生活費をまかなうには不十分であるため、定年後の収入を少しでも増やす方法を模索しなければなりません。厚生年金の受給額を増やすには、できるだけ長く働いたり、確定拠出年金(企業型・個人型)に任意加入して上乗せ部分を事前に準備したりすると良いでしょう。
(定年後も働く場合)給与
定年後も細く長く働き続けて収入を得ることで、家計のキャッシュフローの収支が劇的に好転します。定年後の雇用継続を選択する場合、雇用形態・賃金・労働時間・待遇などの条件面を労使間で十分にすり合わせて、定年後も納得のうえ働ける環境を整えておきましょう。
再雇用や再就職では、収入が現役時代の4〜6割程度になる人が多いようです。
なお、60歳以降も勤務を続ける場合は、年金の一部または全部が支給停止になる可能性があることも知っておきましょう。老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額を合算して48万円を超えない場合は、年金が減額されません。
また、60歳時点の賃金と比較して、60~65歳未満に支払われた賃金が75%未満に下がる場合は、一定の要件のもと、最大15%にあたる高年齢雇用継続給付金を受給できます。
年金支給停止額=(老齢厚生年金の基本月額+総報酬月額相当額-48万円)÷2
60歳以上になっても収入を得たい方、年を重ねて働くことに不安を持っている方は、こちらの記事で働き続けるポイントを紹介していますので、参考にしてみてください。
年金
自分自身の年金の受給見込額の目安は、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で把握しておきましょう。企業へ勤めた期間がある場合は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合計した金額を原則65歳から受け取ることになります。老齢基礎年金の満額はおよそ年79万円、老齢厚生年金は報酬と勤務期間に比例した金額を受け取ります。簡易的な計算方法は日本年金機構が公開しており、「老齢厚生年金の受給年額=平均年収÷200×勤続年数」で概算ができます。
老齢基礎年金(年額) =79万5,000円(2023年度価額)×保険料納付月数 / 480月
老齢厚生年金(年額) =平均標準報酬額×5.481/1000×勤務月数
(2003年3月以前は、「平均標準報酬月額×7.125/1000×勤務月数」)
貯金・貯蓄
総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)」(二人以上の世帯のうち65歳以上無職世帯の消費支出)において、全国の平均的な家計の実態を把握することができます。家計の赤字額は概ね2万2,000〜5万4,000円で推移しています。65歳以降100歳までの35年間生きると仮定した場合、赤字額を概算するとおよそ2,000万円前後(▲2万2,000〜5万4,000円×12か月×35年間)です。65歳時点で貯蓄額2,000万円を目安として資産を形成しておきましょう。
以下の記事では、ケース別に資金計画の立て方について解説しています。
保険
入院の際に必要な治療費や薬代は高額療養費制度(注)の対象になりますが、食事代・差額ベッド代や衣類・日用品等の諸雑費は全額自己負担になります。そのため、入院すると1日あたり平均2万円程度かかるという調査結果が出ています。高齢になるほど入院日数は長期化する傾向があるので、家計のキャッシュフローに及ぼす影響を考えると、不安に思われる方は保険で備えると良いでしょう。
なお、医療保険に先進医療特約を付加すると、先進医療の高額な技術料が保障され、治療の選択肢が広がります。
注…高額療養費制度とは、1か月の間に病院や薬局の窓口で支払った金額が上限額を上回った場合に、上限額を超えた金額が払い戻される制度です。
定年後のために今からできること
豊かな定年後のために、資産寿命と健康寿命の両方を延ばすことを考えましょう。健康寿命を延ばして医療費や介護費の支出を減らすことが、結果として定年後の収支の改善になります。
人生の収支=【定年後の収入(公的・私的年金+勤労等収入+退職金+資産合計(金融商品や満期保険金など)】-【定年後の支出(生活費・住居費・子の教育費+特別な支出+医療費・介護費)+負債合計(住宅ローンなど)】
定年後に向けて、必要となる貯蓄額を把握し、今から老後資金の準備を始めることが大切です。
充実したセカンドライフを送るために大切なこと
自由な時間が増えるセカンドライフでは、これまで我慢していた趣味を謳歌したり、新たな生き甲斐を見つけたりするなど、存分に人生を楽しみたいものです。ただ、この時期は、毎月の生活費だけでなく医療費や介護費、特別な支出も増えることから、収支の悪化を抑えるための対策を今から講じておくべきです。
ある程度正確な家計のキャッシュフロー表を早期に作成すれば、貯蓄残高の推移と資産寿命を見える化でき、無理のないペースで収支改善に取り組めます。充実したセカンドライフを送るためにも、今から具体的なマネープランを立ててみてください。
また、充実したセカンドライフを送るためには、ほかにもいくつかのポイントがあります。以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひチェックしてみてください。
- 「家計調査年報」2022年|総務省
- 年齢階級別1人当たり医療費、自己負担額及び保険料の比較(年額)(令和元年度実績に基づく推計値)(PDF)|厚生労働省
- 「生命保険に関する全国実態調査」2021(令和3)年度|公益社団法人生命保険文化センター
- 公的介護保険で受けられるサービスの内容は?|公益社団法人生命保険文化センター
- 在職老齢年金の計算方法|日本年金機構
- 高年齢雇用継続給付について|ハローワークインターネットサービス(厚生労働省)
- 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額|日本年金機構
- 報酬比例部分|日本年金機構
- 家計調査報告 家計収支編2022年(PDF)|総務省
- 家計調査報告 家計収支編2016年(PDF)|総務省
- 生活保障に関する調査「直近の入院時の1日あたりの自己負担費用」2022年度|生命保険文化センター
- 高額療養費制度を利用される皆さまへ(PDF)| 厚生労働省
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