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少子高齢化にともない、老後の年金が社会問題化するなか、定年後の資金計画に不安を抱いている方は多いでしょう。定年退職後に、ゆとりある生活を送っていくためには、必要な資金を把握するとともに、年金制度などの理解を深め、資金計画を立てることが大切です。
ここでは定年後に必要となる資金の目安や、資金計画の立て方について解説します。
また、資金計画の上で、働くことに興味を持っている方は、こちらの記事で働き続けるポイントを紹介していますので、参考にしてみてください。
老後に必要なお金はいくら?
初めに老後生活に必要となるお金の目安を考えましょう。総務省の『家計調査報告(家計収支編)2022年(PDF)』によると、夫婦ともに65歳以上の無職世帯(夫婦のみ)の消費支出は月額約24万円という結果が出ています。しかし、必要なお金はその人の生活レベルや家族構成によって大きく異なるのが実態です。
とくに健康状態、生活環境、住宅ローンの有無などが資金計画に影響を与えるので、チェックする必要があります。加えて、近年、物価上昇率が高まっていることから、より余裕を見る必要があります。
ご紹介した調査結果は、2022年時点のものであるため、10年後、20年後に定年を迎える方は、上記の金額より多くの資金が必要なものと考えておきましょう。
ゆとりある生活のために必要なお金
次にゆとりをもった老後生活を送るために必要なお金の目安を考えます。公益財団法人生命保険文化センターが行った意識調査では、ゆとりある老後生活費は月額平均約38万円(PDF)と発表されています。
最低日常生活費の約23万円と比較すると約1.6倍の金額であり、上乗せ金額は15万円にのぼるため、高い印象を受ける方も多いでしょう。上乗せ額の使途としては「旅行やレジャー」が最も高く、次に高いのが「日常生活費の充実」と「趣味や教養」と続いています。
ただし、上記に加えて、住宅の建て替えやリフォーム、車の買い替えなど多額の費用がかかるライフイベントを予定していると、たとえ38万円の月収があっても、余裕をもてない可能性も考えられます。そのため、定年後のライフイベントの洗い出しをして、かかる資金の目安を明確にしておくことが、ゆとりある生活を送るために有効な方法と言えるでしょう。
医療費や介護費はどのくらいかかる?
定年後の生活を考える場合、医療費や介護費の負担額も頭に入れておくことが重要です。高齢になると、若いときよりも病気や事故のリスクが高まるほか、介護が必要になる可能性もあるためです。統計データをもとに、それぞれの目安を解説します。
医療費
まず医療費ですが、厚生労働省が令和5年1月に発表した「医療保険に関する基礎資料」によると、生涯で必要となる一人当たりの医療費は、令和2年度の推計で2,700万円となっています。また、一人当たりの医療費を年代別で比較すると、高齢になるほど医療費が高くなる傾向にあります。
データをもとに、60歳以降の医療費の平均を年間ベースで計算すると、60~64歳では約36万円、65~69歳では約44万円、70~74歳では約53万円、75歳~79歳では約60万円の費用がかかることがわかります。
ただし、医療費は現役並みの所得がある場合を除き、69歳まで3割負担、70歳以降は2割負担へ、75歳以降は1割負担と徐々に減少する仕組みになっているので、自己資金の負担額は大きく増えない可能性もあるでしょう。
介護費
次に介護費です。生命保険文化センターが行った調査によると、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用の合計は平均約74万円、月々の費用が平均約8万円となっています。また、介護を行った期間は平均61.1カ月(5年1カ月)であり、4年を超えて介護した人も約5割となっています。
老後のお金シミュレーション
老後の資金計画を実際にシミュレーションしていきます。今回は会社員の夫と専業主婦の妻の家庭を例にして、定年後も働く場合、働かない場合の2パターンでシミュレーションします。両者を比較すれば、定年後も仕事を続けるかどうかを考えるうえで役立つでしょう。
注…定年は65歳とし退職の翌年から年金が受給できることを前提としています。また、仕事と年金以外の収入源はないものとしています。
定年後は働かない場合
初めに定年後は働かない場合を考えます。この場合、退職後の収入は年金のみになりますので、夫と妻それぞれ分けて考えてみましょう。
「会社員(夫)の収入(月額)」
会社員の夫は厚生年金を受給できます。厚生年金の受給額は、会社員時代の収入額によりますが、厚生労働省「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平均14万6,000円となっています。ここでは平均値である、14万6,000円と仮定します。
「専業主婦(妻)の収入(月額)」
専業主婦の妻は国民年金のみを受給します。国民年金は20歳から60歳まで全期間保険料を支払っている方の場合、月額にすると約6万5,000円の受給が可能です。実際には支払っていない期間がある方も少なくありませんが、ここでは6万5,000円と仮定します。
したがって、この場合の夫婦の収入は以下の通りです。
「夫婦の年金(月額)」
(夫)14万6,000円+(妻)6万5,000円=21万1,000円
この場合、老後の最低日常生活費の平均23万円に届かないため、やや生活が困難になる可能性が考えられます。
定年後も働く場合
次に定年後も働く場合を考えます。定年後に仕事を続ける場合に注意すべき制度として、在職老齢年金制度があります。この制度は60歳以降で厚生年金を受給しながら会社に在職して働く方を対象としていますが、制度の対象になると、給与と年金の月額合計が48万円を超える場合、年金支給月額が減額されます。
今回は定年後、給与と年金の月額合計が48万円に届かない範囲(給与の月収20万円)で、夫が嘱託社員として働くケースでシミュレーションを行います。
「会社員(夫)の収入(月額)」
厚生年金の14 万6,000円に加え、会社員の給与20万円が入るため、合計で34万6,000円が収入となります。
「専業主婦(妻)の収入(月額)」
国民年金の6万5,000円が収入となります。
したがって、この場合の夫婦の収入は以下の通りです。
「夫婦の年金(月額)」
(夫)34万6,000円+(妻)6万5,000円=41万1,000円
このケースでは、ゆとりある老後生活費の月平均38万円を超えるため、金銭的に余裕のある老後生活が送れるものと予想されます。
定年後の資金はどう準備する?
会社を定年退職した場合、ほとんどの人は収入が減少するでしょう。会社員の場合、嘱託勤務などの手段もありますが、現役並みの給与を得るのは困難です。
そんななか、定年後の資金を準備する方法を4つ紹介します。
方法1:預貯金
もっとも確実なのは、預貯金をコツコツ増やしていく方法です。銀行の預金金利は非常に低いものの、投資のようなリスクがない点がメリットと言えます。より着実に貯めたい場合は、定期預金を活用してもよいでしょう。また、預金を増やすためのポイントとして、日常生活費を見直して、無駄な支出を抑えることも大切です。
たとえば外食費、生命保険代、通信費、ガソリン代などは、一度毎月かかっている費用を洗い出して、不要なものがないか検討することをおすすめします。
方法2:投資
投資とは、利益を見込んで株式や投資信託などを購入することです。さらに投資信託とは、投資家から集めた資金を運用会社が株式や債券などの金融商品に分散投資し、運用成績に応じて投資家に分配する仕組みを指します。インデックス型の投資信託は、投資の中では比較的リスクを抑えられると言われており、始めやすい商品の一つでしょう。
もし積み立て投資を行い、じっくりと資産を増やしたいのであれば、「つみたてNISA(2024年1月より「新しいNISA」に移行)」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」など税制優遇のある制度を利用するのがおすすめです。
方法3:自宅の住み替え
家庭の状況によっては自宅の住み替えを視野に入れてもよいでしょう。一般的な家庭では、定年退職する時期になると、一緒に暮らしていた子どもは独立しており、家を離れているケースが少なくありません。
夫婦二人暮らしになると住居スペースが余ってしまう場合に、夫婦二人暮らしにちょうどいい広さの家に住み替えをして、住んでいた自宅を売却すれば、定年後の資金として活用できるでしょう。
方法4:働く
専業主婦(主夫)の場合は、子どもの手が離れて時間ができたらパートやアルバイトなどで収入を増やすのも一つの方法です。
会社員などの場合でも最近は副業・兼業も認められるようになってきているので、経験や趣味を活かして副収入を上げることも可能です。これらは定年退職後の安定収入にもつながり、より定年後の資金計画に余裕が出ます。
定年後のために計画的に準備しておきましょう
定年後は生活スタイルが大きく変化するタイミングです。とくに収入面では会社の給与ではなく、年金がメインとなる方が多いでしょう。しかし、少子高齢化が進むなか、年金収入のみではゆとりある生活を送るのは難しい時代になっています。
今後、年金の支給年齢のさらなる引き上げなど、制度が変更になる可能性も考えられるため、預貯金や投資自宅の住み替えなど、老後資金を確保する手段を考えておくことが大切です。
資金計画をシミュレーションしましょう
会社員として働き、忙しい毎日を送っている方は、定年後の生活のイメージや必要な資金について、ゆっくりと考える時間を確保するのは難しいかもしれません。
しかし、計画性をもたずに定年後の生活に入ると、収支が厳しくなったり、健康状態を悪化させたりして、不本意な生活になってしまうリスクが考えられます。ほかにも親の介護や子や孫への資金援助などの臨時支出があるかもしれません。
とくに資金面は会社員時代の収入を維持するのは難しくなるので、事前に必要な資金と予想される収入を比較し、早めに定年後の資金を準備することが大切です。予想される年金の額や、生活資金、医療費・介護費の目安は、計算できますので、自分なりにシミュレーションしておくことをおすすめします。
60歳以上になっても収入を得たい方、年を重ねて働くことに不安を持っている方は、こちらの記事で働き続けるポイントを紹介していますので、参考にしてみてください。
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