親が認知症になったとき・認知症の疑いがあるときの5つの対応方法

2024.05.13

親が高齢になると、接するなかで「認知症かもしれない」「病院で認知機能の低下を指摘されている」などと心配になる場面が増えることもあります。もの忘れが多くなったり、同じことを何度も聞いたりするようになると、これから何をしたらいいのか不安に思うものです。

ここでは、親の認知症やそのリスクについて、家族ができる対応や手続きを解説していきます。踏み込みにくい財産管理の問題にも、具体的な対策方法が分かれば、後になって後悔しない対応ができるはずです。

親が認知症の疑いがある場合に早期にやるべきこと

親が認知症かもしれないと感じたら、以下の対応を早期に行ってください。

  • 医療機関で受診する
  • 家族みんなで認知症について理解を深めておく
  • 今後の生活についての方針を決める

それぞれ見ていきましょう。

【1】医療機関で受診する

認知症の進行は、日常生活ができる状態から段階的に起こります。まだ診断を受けていない状態で認知症と思われるサイン・症状がある場合には、迷うことなく、なるべく早く受診をしましょう。

■軽度認知障害(MCI)のサイン・症状

  • 以前と比べてもの忘れなどの認知機能の低下がある、本人が自覚している、または家族などによって気づかれる
  • もの忘れが多いという自覚がある
  • 日常生活にはそれほど大きな支障はきたしていない

※引用元:認知症|こころの情報サイト(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

■中核症状におけるサイン・症状(一部抜粋)

  • もの忘れ(記憶障害)
    ・数分前、数時間前の出来事をすぐ忘れる
    ・同じことを何度も言う・聞く
  • 時間・場所がわからなくなる(見当識障害)
    ・日付や曜日がわからなくなる
    ・慣れた道で迷うことがある
  • 理解力・判断力が低下する
    ・手続きや貯金の出し入れができなくなる
    ・状況や説明が理解できなくなる、テレビ番組の内容が理解できなくなる
  • 仕事や家事・趣味、身の回りのことができなくなる
    ・仕事や家事・趣味の段取りが悪くなる、時間がかかるようになる
    ・調理の味付けを間違える、掃除や洗濯がきちんとできなくなる

※引用元:認知症|こころの情報サイト(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

上記のようなサインや症状が出ていても、すぐに受診する判断ができない場合もあるでしょう。そのようなときは、地域包括支援センターや、かかりつけ医を紹介してもらえる窓口に相談してみることもできます。認知症に関する相談先は、厚生労働省のホームページでまとめて紹介されています。

参考:認知症に関する相談について |厚生労働省

【2】家族みんなで認知症について理解を深めておく

認知症になると、本人や家族にとって、大小さまざまなリスクが発生します。本人の健康状態や行動から目が離せないのはもちろんのこと、生活費が十分あるにも関わらず出金できなくなるような事態も考えられます。

<認知症によるリスク>

  • ケガや事故、行方不明の恐れ
  • 詐欺に遭う可能性
  • 食べ物の偏りや運動量の減少により生活習慣病にかかる
  • 薬を飲み忘れることによる持病の悪化
  • 資産が凍結され、預貯金の引き出しや不動産取引などができなくなる(意思能力がない判断された場合)

周囲の認知症への理解が浅いと、本人の言動に関する疑問や不安から「本人に強く当たってしまう」「自分自身がストレスをため込んでしまう」といった問題が起きがちです。

ただでさえ物事がスムーズに運ばず混乱・不安を感じている本人に強く当たってしまうと、さらに自信を失くし、混乱や怒りを募らせてしまうでしょう。このようにして本人と周囲の人のあいだの溝が深まり続けると、当事者全員が疲弊し、最後には共倒れになってしまうかもしれません。

認知症と診断された人への正しい対応方法を身に付けることは、本人のより良い生活や周囲の人のストレス軽減につながります。下記の「知っておきたい認知症の基本」 では、主に家族に向けて、認知症の症状や予防法、相談先などがわかりやすく記載されています。ぜひ参考にしてみてください。

参考:専門職のための認知症の本人と家族が共に生きることを支える手引き

【監修者からひとこと】
認知症による消費者トラブルは増加し、行方不明になる人も2022年の時点で1万8709人(警視庁調べ)となりました。契約関係のトラブルや、居所が分からなくなった場合の対処(不在者財産管理制度の利用など)は、家族にとって特に負担が大きいものです。発症リスクが高まる年齢に達したときは、将来について真剣に考えたいと言えます。

【3】今後の生活についての方針を決める

認知症と診断され、介護が必要になったら、施設への入居や在宅看護など、さまざまな選択肢が浮上するでしょう。どういった方針で介護に当たるのか、本人の意向を尊重し、家族でしっかりと話し合うことが重要です。

介護や生活支援について悩むことがあれば、外部のサービスや支援者・専門機関を積極的に頼りましょう。相談先としては、次のような窓口があげられます。

地域包括支援センターや自治体の相談窓口

認知症について相談する際の窓口としては、地域包括支援センターや自治体の相談窓口などが第一の候補になります。

地域包括支援センターとは、地域で暮らす高齢者のため保険医療・介護の相談に対応し、必要に応じて適切なサービス・制度を案内してくれる窓口です。各地の自治体でも、役場の福祉担当窓口や保健所などで、認知症と診断された人のケアや接し方について、相談を受け付けています。

厚生労働省のホームページでは、全国の地域包括支援センターの問い合わせ先のほかに、身近なことについて相談できる公益社団法人や、医療に関する問い合わせ先も紹介されています。

参考:認知症に関する相談先|厚生労働省
参考:介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」|厚生労働省

認知症疾患医療センター

認知症について、とくに医学的な支援を受けたい場合は、各地の自治体から「認知症疾患医療センター」に指定された医療機関の受診をおすすめします。認知症の診断や初期対応・専門医療の相談対応・診断後の相談支援などを行い、認知症の進行予防から地域生活の維持まで医学的な観点で支援できると認められた機関です。

居住地域の認知症疾患医療センターは、自治体のホームページから確認できます。探し方が分からない場合は、公益団体に問い合わせれば紹介してもらえるでしょう。

参考:一般社団法人 日本認知症予防協会

電話相談

介護経験者などから成る公益社団法人などでは、本人の家族や支援者からのさまざまな悩みを電話相談で傾聴する取り組みを行なっています。病院や支援機関の受診方法やお金の心配といった現実的な問題から、介護疲れに関する悩みの告白まで、さまざまな話を聞いてもらえます。

「話したいことがあるのに、どこで話せばいいのか分からない」といった場合には、ここで紹介するような電話相談を利用すると良いでしょう。

参考:電話相談 | 活動内容 | 公益社団法人認知症の人と家族の会

親が認知症の疑いがある場合に話し合っておきたいこと

ここまでの解説では、認知症の疑いがあるときの早期対応について紹介しました。以降では、繊細な問題になるものの、認知症対策として無視できない「財産凍結のリスクとその対策」として、以下の2点を解説します。

  • 財産情報を共有する
  • 財産管理や相続対策について話し合う

話を切り出しにくい点もありますが、何も対応していない状態では、あとの負担が大きくなってしまうため、徐々に進めていきたいところです。話し合いの方向性を固めたあとは、専門家を間に入れて協議することも検討してみてください。

財産情報を共有する

財産に関する認知症対策として最初にやりたいのは、本人からの財産情報の共有です。認知症が進行してからでは、調べるのに時間がかかり、調査を担当する人とそうでない家族との間でトラブルが起きる可能性があります。

気乗りしないからといって情報共有しないままでいると、万一のときに「生活費が下ろせない」「負債が膨らんで督促が来る」など困った事態に陥るかもしれません。とくに情報共有が必要な項目について、表にまとめました。他にも確認しておきたい点があれば、追加して一覧にしておくようにしましょう。

確認項目 聞いておくべきこと
預貯金 ・預貯金のある銀行名
・通帳や印鑑、キャッシュカードの保管場所
不動産 ・自宅の権利証(登記済証や登記識別情報)の場所
・そのほかの不動産の所有有無、権利証の場所
投資用資産 ・口座のある会社名
・証券口座で行っている取引
・海外にある資産
そのほかの資産 ・貴金属・宝石・絵画などのコレクター品
・知り合いの会社などに対する貸付金
・貸金庫の有無(+何を預けているのか)
生活関連 ・新聞などの定期購入しているもの
・インフラ、携帯電話の契約状況
・上記の引き落とし口座
そのほか ・完済前のローン(残高、毎月返済額など)
・医療保険、生命保険の加入状況

財産管理や相続対策について話し合う

認知症の症状が進み、判断能力が低下すると、法律上「意思能力がない状態」と見なされて、契約を含む法律行為が一切できなくなります。だからといって、権限が無ければ、近しい同居親族ですら「生活費を預金口座から引き出す」といった行動すらできません。そこで検討したいのが、下記のような対策です。

  • 委任契約
  • 家族信託
  • 生前贈与
  • 任意後見制度
  • 成年後見制度(法定後見)
  • 遺言書の作成

注意したいのは、法定後見を除き、どれも認知症と診断されて判断能力が不十分になったあと(=法律行為に必要な意思能力がない状態)では、手続きできない点です。言い出しにくい内容ですが、元気なうちに手続きが完了するところまで進めなくてはなりません。

それぞれの契約・制度について解説します。

委任契約

認知症と診断されたときの財産管理を信頼できる人に任せる手段として、元気なときに委任契約を利用する方法があります。預貯金の管理や生活費の支払い、介護サービスや施設入居などのための手続きを、親子や夫婦のあいだで相手に任せる契約です。

委任契約は、委任事項を指定した契約書を自分たちで作れば始められますが、公正証書で契約締結した方が確実です。

家族信託

家族信託とは、委任契約と同じように、子どもなどの信頼できる人に財産管理を任せる方法です。委任契約との違いは、契約締結後すぐに財産管理を始められる点や、財産から利益を得る権利(受益権)の指定や移動により「配偶者の認知症対策も一緒に行う」「遺産の承継先を決めておく」といった柔軟な設計ができる点です。

家族信託は、認知症および相続対策としておすすめできる方法ですが、注意点が多数あります。契約は公正証書でしか行えない点や、財産管理する人(受託者)が担う税務申告などの事務が複雑になる点です。契約方法も、委任契約とは異なり、信託法に沿って公正証書で行うよう義務付けられています。

東京ガスの提携する家族信託企業「ファミトラ」では、弁護士監修のシステムを使用し、複雑な家族信託の手続きを簡単かつ低価格で実現しました。以下のページにて詳しく解説していますので、気になる方はチェックしてみてください。

生前贈与

運用・管理を継続し続ける必要のある財産については、認知症と診断される前に、信頼できる将来の相続人に生前贈与するといった対策も考えられます。贈与で所有権が移った財産は、その時点から子どもの自主的な判断で管理でき、贈与した人の健康状態とは無関係に保護されます。

注意したいのは、財産を受け取った人に贈与税の課税がある点や、あとになって親族の間でトラブルになってしまう可能性です。税金については、課税年度ごとにある基礎控除110万円の範囲内で贈与するなど、対策が必要です。

トラブル防止策については、親子や夫婦のあいだでも契約書を作り、将来の相続人やそのほかの身近な人と情報共有しておくと良いでしょう。


任意後見制度

任意後見制度では、認知症と診断された場合に備え、子どもなどの信頼のできる人と、あらかじめ後見人になってもらうための契約を交わします。

後見の内容は、財産管理のほかに生活に関すること(身上監護)であれば自由に決めることが可能です。認知症の診断が下ったときは、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行い、選任された人(弁護士か司法書士)の監督下で後見が始まります。

任意後見制度のデメリットは、後述の法定後見に比べて、後見人の権限の範囲が狭い点です。認知症と診断されたあとのトラブルとして「判断能力のない状態で本人が不利な取引をしてしまう」といった場合はよくありますが、任意後見人はこれを取り消す権限がありません。

成年後見制度(法定後見)

成年後見制度のうち「法定後見」と呼ばれる方法は、認知症の進行により判断能力が不十分となった段階で利用できる、財産管理および身上監護のための制度です。親族などの申立てにより、家庭裁判所で後見開始の審判を経て、成年後見人が選任されます。本人の財産状況や親族の人間関係によっては、成年後見監督人も選任されることがあります。

法定後見と任意後見の違いは、後見人を選任するタイミングと、本人の意思で選任できるかどうかです。法定後見は判断能力に欠けた状態となってから家裁の権限で選任しますが、任意後見は元気なうちに行った本人と後見人とのあいだの合意に基づくものです。

一見すると任意後見のほうがメリットが大きく見えますが、法定後見のほうが優れている点もあります。法定後見では、後見人に完全な代理権があり、本人の誤った判断で行なった取引を取り消す権限が認められます。

遺言書の作成

直接的な認知症対策にはなりませんが、元気なうちに遺言書を作成しておくことも大切です。認知症がある程度進み、判断能力が不十分になると、遺言を含めたあらゆる法律行為が出来なくなるためです。

ポイントは、遺言書は本人しか作成できない点です。あらかじめ「このように財産を承継したい」という意思を後見人などと共有していて、本人の意思に沿った文章を代筆してくれたとしても、ほかの誰かが作成した遺言書に効力はありません。遺産を受け継ぐ人の指定は、元気なうちにやっておく必要があります。

【監修者からひとこと】
遺言書の難点は、家族共同での作成が認められない点です。夫婦の財産を将来的には一定のかたちで承継させたいのなら、夫と妻が両方とも意思能力を持った状態で、それぞれ遺言書を作成する必要があります。

親に認知症の疑いがあるときにやるべきことのまとめ

親が認知症の疑いがある場合、早期の受診と家族の理解が重要です。認知症についての知識を深め、今後の生活方針を決めましょう。また、財産管理や相続対策についても話し合い、適切な準備をしておくことが大切です。

家族の認知機能に不安があるときは、一人で抱え込まずに専門家に相談することをおすすめします。東京ガスと提携している「ファミトラ」は、家族信託の手続きを弁護士監修のシステムで簡単かつ低価格に利用できるサービス提供企業です。なるべく負担を減らして家族信託の活用を考えている方は、一度検討してみてはいかがでしょうか。

遠藤 秋乃

執筆者

遠藤 秋乃
司法書士/行政書士/ライター

大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。
転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。
2017年に退社後フリーライターへ転身し、現在も活動中。
培ってきた知識や相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応した経験をもとに、原稿執筆を行う。

SNS:https://twitter.com/akino_endo

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