銀行で契約できる家族信託とは?利用のメリットと注意点

2024.04.15

家族信託は、一般的に司法書士など様々な入り口から家族との間の契約を組成することができます。一方で、銀行で契約できる家族信託は、ご自身の預貯金・金銭を預け入れたうえで、死亡など万一のときはスムーズに配偶者やお子様へ払い戻してもらえる内容の金融商品です。信託法に基づいて親族を受託者とする家族信託契約とは異なり、払い戻しが迅速で、親族の負担も少ないのがメリットです。

ただし、契約にあたってはいくつかの注意点もあるため、ご自分やご家族が利用に向いているのかどうか条件を確認しておきましょう。

この記事では、銀行で契約できる家族信託の特徴や親族と契約する場合との違い、サービス利用上の注意点を解説します。

銀行で契約できる家族信託とは?

信託銀行が家族信託などの名称で取り扱うのは、銀行が契約上の受託者となり、顧客の財産を管理する金融商品です。営利目的の「商事信託」と呼ばれ、改正信託法に沿って行う家族信託の契約とは全く異なります。

法律に沿って契約を結ぶ一般的な家族信託の受託者は、配偶者やお子様などといった親族です。親族が受託者となる契約では、当事者が合意できる範囲で自由に管理・出金の方針を決められます。

一方で、銀行が取り扱う家族信託サービスは、提供元である銀行が受託者となって原則金銭のみ預かることが特徴です。認知症のある方など財産管理が難しい方の預貯金口座の凍結を回避するために有効な手段ですが、銀行のパッケージ商品となるため、契約前に商品内容をよく吟味する必要があります。

銀行の家族信託サービスの利用用途

銀行の家族信託サービスは、主に老後の預金凍結対策として利用されるのが一般的です。預金凍結は、認知症などによりお金を預けた方の判断能力が不十分になったときや、相続が開始して遺産の取り分が決まらないときに起こります。

上記の状況では、自分自身でお金を下ろせないことはもちろん、権利がなければご家族ですら出金対応をしてもらえません。不正利用を防ぐため、銀行側で口座を使えないようにする場合もあります。

銀行の家族信託では、お客さまである委託者から払い戻し先の指定を受けることで、健康不安が生じたり委託者が亡くなったりした場合でも、速やかな出金対応が可能です。この仕組みがあることで、万一のときにも家族の生活費を確保できるでしょう。

一般的な「家族信託」との違い

銀行が扱う商事信託としての家族信託サービスと、親族のあいだで契約を交わす家族信託を比較してみましょう。下表のように、大きく5つの項目で区別できます。

比較項目 民間の家族信託
(民事信託)
銀行の家族信託サービス
(商事信託)
受託者 家族や親族 内閣総理大臣の免許や認可を受けた信託銀行などの金融機関
信託契約の柔軟性 自由度が高い 契約内容が決まっているため、その範囲内でしか設定できない
信託できる財産 預貯金、不動産など財産一般 預貯金(金銭)のみ
最低金額 なし あり
信託報酬 不要 発生する

2つの大きな違いは、受託者が誰になるのかという点です。商事信託の受託者は、金融機関となる一方で、家族信託は合意を交わした配偶者やお子様などの信頼できる親族です。銀行という名の第三者が営利目的で受託者となるため、信託報酬も発生します。

銀行の家族信託サービスは、受託者が親族以外になるため、受託者にできること(権限)が少なくなるのが特徴です。また、商事信託で信託できる財産は通常預貯金に限られるのに対し、民事信託は不動産などの財産の所有権も受託者に移り、契約内容の範囲で管理や運用、処分が可能になります。

【監修者からひとこと】
銀行の家族信託は、「ある程度の制限をかけつつ、預金口座を家族も使えるようにしたもの」と考えると良いでしょう。生前対策として認知されつつある家族信託のような、遺言・認知症対策に向けた包括的な機能は備わっていません。

家族信託サービスが利用できる銀行

銀行で家族信託が利用できるのは、業務範囲の広い信託銀行が中心です。近年は、普通預金・定期預金が主な業務となる通常の銀行でも取り扱いが広がっていますが、信託銀行の代理店として行っている場合もあります。

下記は、家族信託を取り扱う主な銀行と利用時に最低限預け入れる必要のある金額です。

  • 三菱UFJ信託銀行(1,000万円~)
  • みずほ信託銀行(一時金型100万円~・年金型500万円~)
  • 三井住友信託銀行(一時金型100万円~・年金型500万円~)

銀行ごとに契約内容に違いがあるため、確認のうえで比較検討することが大切です。

なお、銀行の家族信託サービスを検討するときは、あらかじめ親族を受託者として契約する必要のある「信託口口座」と区別する必要があります。信託口口座は、契約上受託者である親族が財産を個人資産と分別するためのもので、銀行に管理してもらうためのものではありません。

銀行の家族信託サービスを利用するメリット

銀行の家族信託サービスは、身寄りのない方や近しい親族のいない方でも、万一のときの預金凍結を避けられるといったメリットがあります。ここでは、銀行の家族信託サービスにおけるメリットについて詳しく確認していきましょう。

親族に受託者がいなくても安心して利用できる

銀行の家族信託サービスなら、受託者になってくれる親族に心当たりがなくても、銀行に引き受けてもらえます。お子様のいないご家庭のほか、単身者の方が利用できる商品もあり、認知症になったあとや残されたご家族のために利用を始められるのがメリットです。

預金管理の体制も、銀行ならではの安心感があります。入出金システムや本人確認のためのルールが徹底され、セキュリティは万全です。銀行の経営難に関しては、元本保証や預金保護制度によって資産が守られます。

相続発生後すぐに資金の引き出しができる

預金凍結によるトラブルが起こりやすいのは、口座名義人が亡くなったときです。通常の預金口座だと、遺産分割協議が完了するまで出金できません。特別に相続人限定で出金対応してくれる場合もありますが、窓口での書類記入やヒアリングのため時間がかかるうえに、限度額は法定相続分に限られるのが一般的です。

銀行の家族信託サービスを利用していれば、契約内容に沿って、必要な金額の速やかな引き出しに応じてくれます。なお、すぐに財産を受け取れるのは契約時に設定していたご家族などの受益者(継承者)に限られるため、申し込みの際に確認しておきましょう。

親族・遺族の事務負担が少ない

銀行が提供する家族信託は、親族やご遺族の事務負担を少なくできる点もメリットです。受託者として資金管理から出金対応までを任せられるため、いざというとき親族・ご遺族が行う必要があるのは死亡連絡と出金申請だけです。

一方で、管理も引き出しも簡単になることから、受益者や承継者による使い込みの原因にならないか不安に感じる方もいるかもしれません。この点に関しては、出金方法(まとめて払う一時金方式か・定期定額払いの年金方式か)と上限額を事前に指定できるため、必要以上の使い込みを防げます。

銀行の家族信託サービスを利用する際の注意点

銀行の家族信託サービスを利用する際は、商品によって入金額および管理・出金の方針が固定される点に注意が必要です。また、契約時の担当者は必ずしも法律に詳しい専門家というわけではないため、満足のいくアドバイスを受けられない可能性もあります。

家族信託のデメリットについて、詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。

少額では利用できないことが多い

各銀行で取り扱う家族信託は通常、預金の最低金額が定められています。管理を任せようとする預金がごく少額だと、利用できないケースがほとんどです。一般的には、少なくとも100万円以上を預け入れる必要があり、定期定額の引き出しである年金型の商品なら500万円以上の最低金額が設定されている場合もあります。

利用にあたって費用がかかるという観点でも、管理を任せたい額が少ないと、思うような効果を期待できないかもしれません。

家族信託と比べて費用が高くなることが多い

銀行の家族信託サービスは、民事信託と違って手続きの大半が指定額での有償対応となる点から、通常の家族信託と比べて費用が高くなってしまう可能性があります。サービス利用料は銀行によって異なりますが、初期費用として数十万円、信託報酬(管理報酬)として毎月数万円を支払わなければなりません

家族信託サービスによる金銭の払い戻しは、相続人の取り分を損ねる可能性があるため、銀行の支援で遺言書作成などを行う場合があります。初期費用は、上記のような手続きのための手数料です。

信託報酬(管理報酬)は、代わりに運用報酬が設定されていることもあります。元本保証としながらも預け入れたお金を銀行が運用し、実際の運用益と予定されていた利益の差を報酬とする仕組みです。継続的にかかるのは運用報酬だけとする商品なら、比較的安く済む可能性はあるでしょう。

自由度が低くニーズに合った細かな設計ができない

金融商品としての家族信託は、契約の仕組みとサービスがパッケージ化されており、細かな要望には対応してもらえないケースがあります。経営中の不動産や未上場株式を管理してもらったり、ご家族で柔軟な資産運用計画を立てたりするのは困難です。このため、希望にあった商品が見つかるとも限りません。

担当行員変更によるリスクも考慮する

家族信託は継続的な有識者のサポートを要しますが、銀行では担当行員が都度変わり、そのたびにご家族の状況などを説明しなおす手間が生じます。行員によって老後対策や相続に関する知識にもムラがあるため、場合によっては、良い提案が得られなくなってしまうかもしれません。

家族信託について相談できる銀行員が少ない場合もある

銀行が取り扱う家族信託を契約する場合、利用するなかで関わる担当者のすべてが相続や法律に詳しいとは限りません。銀行としては顧客のニーズに合わせて商品を取り扱っているだけで、専門知識によるサポートをメインにしているわけではないためです。契約にあたって不安なことを相談しても、適切なアドバイスを受けられるとは限らないでしょう。

銀行の家族信託サービスの利用が向いているケース・向かないケース

銀行による家族信託が向いているのは、身辺に受託者候補として思い当たる方がおらず、商品の仕様がご自身とご家族の目的にマッチしているときです。反対に、金銭以外の資産についても相続に備えておきたい場合や、ご家族が合意できる範囲で運用計画を自由に設計したいときには適さない可能性があるでしょう。

【銀行の家族信託サービスが向いているケース】

  • ご家族・親族に受託者がいない
  • 認知症や相続に備える必要がある資産は預金だけ
  • ご家族に家族信託の事務手続きの負担をかけたくない
  • セキュリティやプライバシーを重視したい

【銀行の家族信託サービスが向かないケース】

  • 金銭以外の財産を信託したい
  • 預金凍結に関する対策は済んでいる(生前贈与など)
  • 信託契約の期間や管理権限について細かく設計したい
  • 信託報酬をゼロにするか、合意できる範囲で少額にしたい

これらをふまえて、家族信託の方法を検討する際は「自身のニーズに合っているかどうか」や「費用対効果は十分か」などを考慮してみてはいかがでしょうか

【監修者からひとこと】
銀行で販売されている「家族信託」や「遺言信託」といった商品は、基本的に預貯金の凍結対策や、残された家族による無駄遣いが心配なときに利用するものです。遺言書や家族信託(民事信託)の予備的なものと考えると良いでしょう。

特徴を理解して最適な家族信託を利用しよう

信託銀行を中心に取り扱いのある家族信託サービスは、信託中の金銭管理から出金対応までを担ってくれる金融商品の一つです。スムーズな資金の引き出しやご親族の事務負担を軽減できる点が魅力ですが、利用に費用がかかることや自由度の低さも考慮したうえで契約を検討する必要があります。

亡くなったときや認知症を発症したときに備え、財産の管理を外部に任せる際は、ご自身や親族のご要望もふまえて総合的な提案がもらえると安心です。東京ガスと提携している「ファミトラ」は、必要な手続きを効率的に行い、従来よりも安く・手間のない方法で家族信託サービスを提供しています。資料請求の受付も行なっておりますので、ぜひチェックしてみてください。

遠藤 秋乃

執筆者

遠藤 秋乃
司法書士/行政書士/ライター

大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。
転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。
2017年に退社後フリーライターへ転身し、現在も活動中。
培ってきた知識や相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応した経験をもとに、原稿執筆を行う。

SNS:https://twitter.com/akino_endo

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