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突然、転居を伴う長期の転勤が決まった場合、賃貸であれば退去手続きをしてすぐに引っ越しをすることができます。一方、持ち家を構えている場合には、「単身赴任をするのか」「家族とともに引っ越すのか」「全員で引っ越す場合は持ち家をどうするのか」などさまざまな選択肢があります。
選択肢によっては現在受けている住宅ローン控除が受けられなくなることがあるため、自身の状況に合わせて最適な選択をする必要があります。
この記事では、転勤にまつわる住宅ローン控除の取り扱いや、持ち家で取りえる選択肢について解説します。
転勤の場合、住宅ローン控除はどうなる?
家を購入するときには、多くの方が住宅ローンを組み、それに伴って住宅ローン控除を受けるでしょう。しかし、もし住宅ローンの返済が残っている状況で転勤となった場合も、住宅ローンを継続し、住宅ローン控除を引き続き受けることは可能なのでしょうか。
転勤後の状況によって変わるので、状況別に違いを解説します。
ローン利用者本人が単身赴任の場合
まず、住宅ローンの融資条件として、「利用者本人または家族の居住」が条件となっているケースがあります。この場合、ローン利用者が単身赴任となっても、ご家族がいる場合はご家族がそのまま住み続けることによって住宅ローンは継続できます。
次に、住宅ローン控除についてはどうでしょうか。住宅ローンを受けるためには、以下のような条件が国税庁により定められています。
個人が、住宅ローン等を利用して居住用家屋の新築もしくは取得または増改築等をした日から6か月以内にその者の居住の用に供し、かつ、その年の12月31日まで引き続きその者の居住の用に供していることが必要
引用:No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等|国税庁
ただし、転勤などのやむを得ない事情によって居住することが難しい場合は、国内への単身赴任に限り、配偶者や扶養親族などの家族が住み続けることによって住宅ローン控除を受けることができます。
単身赴任先が海外の場合
単身赴任先が国内ではなく海外の場合は、2016年3月31日以前に住宅を取得したか否かで条件が変わります。
2016年3月31日以前に住宅を取得した場合、ローン利用者が海外へ転勤している間は、住宅ローン控除の適用対象外となります。しかし、転勤が終了して国内へ戻ってきた際に住宅ローン控除の期間が残っていれば、その期間については住宅ローン控除を受けることができます。
一方、税制改正の行われた2016年4月1日以後に住宅の取得等をした場合は、ローン利用者が海外への転勤となっても、家族が住宅に引き続き住んでいれば、住宅ローン控除を受けることができます。
また、控除の対象となるのは国内の所得のみですので、赴任期間に現地法人から給与が払われる場合などは注意が必要です。
家族全員で引っ越す場合
家族全員で転勤先に引っ越し、「住宅ローンの利用者本人またはその家族が居住」していない場合は、住宅ローン控除を受けることはできません。しかし、家族全員で転勤先へ引っ越し、数年後に持ち家に戻ってきた場合は、事前に必要な手続き(詳しくはこちら)を済ませておくことで、住宅ローン控除を再度受けることが可能となります。
ただし、転勤先の居住期間については、住宅ローン控除の残存期間から差し引かれます。たとえば、住宅ローン控除の期間が13年ある中で5年間転勤先に住んだ後に持ち家に戻ってきた場合は、合計で8年分の住宅ローン控除を受けられることになります。
ここまで説明した住宅ローン控除の基本的な知識を踏まえ、次からは転勤時の持ち家の選択肢について説明していきます。
転勤で家を空き家にすると、どんなメリット・デメリットがある?
自分自身、ないしは家族を含めて誰も住んでいないマイホームを空き家にして転勤先に引っ越す場合のメリット・デメリット、注意点について解説します。
空き家とするメリットについて
空き家にしておくと、転勤して任期中であっても自由に一時帰宅することができます。転勤が終わり、帰ってきた際も新たに家を探す必要がなく、都合の良いタイミングで住み慣れた家に戻って来られるメリットがあります。
また、家具や家電などもそのままにしておけるので、引っ越しの荷物整理なども最小限にとどめることができます。
空き家とするデメリットについて
一方、デメリットは、住んでいない間も固定資産税や火災保険などの維持費が今まで通りかかり続けることです。加えて、持ち家がマンションの場合は、管理費や修繕積立費も引き続きかかります。
また、長期間誰も住んでいない家は換気などが行われず、通常よりも早く傷んでしまいます。定期的に家に戻って掃除をしたり、空き家管理代行などの有料サービスを利用したりして、継続的にメンテナンスしていく必要があります。空き家の状況が長く続くことで、犯罪に利用されたり、放火されたりするリスクも少なからずあります。
空き家とする際の注意点
住宅ローン利用者とその家族が住んでいない状態になるので、住宅ローンを借り続けられるかどうか、事前に金融機関に相談することが必要です。
財形住宅融資(注)の場合は、空き家の間の管理人を選定することで、引き続きローンを借りることが可能ですが、金融機関によっては、一括返済を求められる可能性があります。短い間の転勤であっても、必ず事前に相談するようにしましょう。
注…財形貯蓄を利用している方向けのローンで、一定条件のもと利用できる
また、住宅ローン控除に関しては、前述の通り受けられなくなるため適用除外期間などをしっかり確認しておきましょう。
転勤で家を貸し出す場合のメリット・デメリット
家族全員が転勤先に転居し、その間は持ち家を賃貸として貸し出す場合のメリット・デメリット、注意点について解説していきます。
貸し出すメリットについて
持ち家を賃貸として貸し出す大きなメリットとして、家賃収入を得られる点があげられます。家賃収入で固定資産税などの維持費をまかなうこともできます。
また、転勤先から戻ってくる時期があらかじめわかっている場合は、期間を限定して貸し出しを行い、戻ってきた後に再び住むことができる点もメリットです。人に住んでもらうことで建物も傷みにくくなり、犯罪に利用されたり、放火されたりするリスクも減ります。
持ち家を気に入っていて、売却したくないけれど数年単位での転勤となる場合は、貸し出すという選択肢も検討できるでしょう。
貸し出すデメリットについて
一方、持ち家を賃貸として貸し出すデメリットは、空き家にする際と同様、維持費や管理費、税金などの費用がかかるということです。
賃借人退去後のクリーニング費用なども必要となってくるため、貸し出しをする際は、これらの費用がどのくらいかかるのかを事前に確認しましょう。それらの費用を回収できる金額で家賃を設定することがポイントです。
また、他人が大切なマイホームで生活することに抵抗を感じる人もいるでしょう。1〜2年以内の短期間の貸し出しや、持ち家のある地域・立地のアクセスによっては、借り手が見つからないケースがあることにも注意が必要です。
貸し出す際の注意点
住宅ローンは「利用者本人の居住」が融資の条件となっていることがほとんどです。そのため、賃貸として貸し出す場合には住宅ローンの融資条件から外れてしまい、住宅ローンを継続して借りることができない可能性があります。その際は、住宅ローン控除についても、同様に受けられなくなります。
また、ご自身の状況においてどのような貸し方が最適かを考えましょう。たとえば、一定の期間で貸し出しをする場合は、普通借家契約ではなく、定期借家契約という方法で賃貸契約をする必要があります。
定期借家契約とは、期間を定めて貸し出しをすることができて、期間満了のタイミングで契約が終了し、更新は基本的にありません。また、1年未満の短期での貸し出しも可能です。
転勤が一定期間で終了し、持ち家に戻ることがわかっている場合は、基本的に定期借家契約を活用しても良いでしょう。
転勤で家を売却する場合のメリット・デメリット
家族全員が転勤先に転居し、その後戻ってくるかどうかわからない場合は、持ち家を売却するという選択肢があります。持ち家を売却する場合の、メリットやデメリット、注意点について解説していきます。
売却するメリットについて
持ち家を売却するメリットは、維持費や管理費、税金などの支払いがなくなるほか、売却によるまとまった資金が得られることです。
また、転勤先から戻る予定がないケースでは、売却資金を活用して持ち家の買い替えを検討することもできるでしょう。転勤を機に今後の住まいについて考え、新しいライフスタイルや将来のことを見据えた住み替え先を選択できます。
売却するデメリットについて
売却するデメリットは、まずは住み慣れた家を手放すことでしょう。加えて、売却にかかわる費用や時間を負担しなくてはならないこともデメリットといえます。
たとえば、仲介による売却を検討する場合は、仲介手数料がかかり、購入希望者探しに時間がかかります。売り出しから時間が経ってもなかなか買主が見つからないこともあるため、引っ越しの時期が明確に決まっている場合は価格を下げたり、買取業者が直接住居を買い取る「買取」も視野に入れてみたりすると良いでしょう。
また、住宅ローンの残債が残っている場合は、基本的にローンの残債分を返済して抵当権の抹消を行う必要があり、残債額によってはまとまった返済資金が必要となります。不動産査定を行い、住宅ローンの残債でどれだけ差額が生じるかなど、早めに資金計画を立てておきましょう。
売却する際の注意点
売却する際は、売却する住居の相場を知るためにも複数の不動産会社に査定を依頼し、比較検討することが大切です。査定価格も確認すべきポイントではありますが、売却にかかる手間を減らすため不動産会社の対応や姿勢などもしっかりとチェックしておきましょう。
また、マイホームの売却や買い替えを検討する場合、資金計画を綿密に立てる必要があります。査定結果や住宅ローンの残債をもとに収支のシミュレーションをしっかりと行い、本当に売却や買い替えをするべきなのか検討するようにしましょう。
不動産の売買は、一生のうちに何度も経験するものではありません。税制優遇など各種制度が適用されるかを相談するため、上手に不動産会社や専門家を活用しましょう。
収支をシミュレーションして最適な選択肢を選びましょう
住宅ローン返済中に転勤になった場合、単身赴任で家族がそのまま持ち家に住み続けるのか、家族全員で転居して持ち家を賃貸として貸し出すのか、売却するのか、さまざまな選択肢があります。
どの選択が最適となるのかは、転勤の見通しやご自身の状況・ライフプランによって変わります。住宅ローン控除が適用されるか否かなども確認したうえで収支をシミュレーションしておき、最適な選択ができるようにしましょう。
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