目次
さまざまな事情で所有不動産を売却し、現在の家を住み替えるケースがあります。新たな不動産購入の資金に充てるため、今住んでいる不動産を売却することも選択肢のひとつでしょう。
そうしたときに気になるのが、住宅ローンがまだ残っている、ローン残債があるケースです。住み替えで新たに住宅ローンを組む場合、現在住んでいる不動産にローン残債があれば、売却益などで残債分を相殺するのが一般的です。しかし、場合によっては残債を相殺できないこともあり得ます。
そこで検討したいのが、「住み替えローン」です。本記事では、住み替えローンとはどのようなローンなのか、利用要件、メリット・デメリット、50代以上で利用する際の注意点について解説します。
ローン残債があっても借入が可能な「住み替えローン」とは?
住宅ローンの残債がある場合、自宅の売却益などで残債分を完済し、抵当権(注1)を抹消しない限りは売却できないというのが一般的な考え方です。
しかし、残債があっても早く住み替え先に移り住む必要がある方もいるでしょう。そんなときに活用できるのが、住み替えローンです。
住み替えローンは、残債分と新居を購入する資金を合算した金額を借入できるローンです。住み替え前の家を売却しても債務が残る場合や、手元の資金を貯蓄として残しておきたい場合に有効な住宅ローンといえます。
注1…金融機関が、住宅ローンの借入時に購入した土地や建物を担保に設定する権利
住み替えローンを利用するメリット・デメリット
住み替えローンを利用する場合のメリット・デメリットを紹介します。
メリット1.返済中のローンの完済資金と新居の購入資金をまとめて調達できる
住み替えローンの最大の目的は、住宅ローンの残債があっても自宅を売却し、新居に住み替えることです。新たに通常の住宅ローンを組む場合は、もともと住んでいた家の残債を完済していなければ、基本的にローンが組めません。しかし、住み替えローンではその返済資金もまとめられます。
住み替えローンでは、現在の住宅の売却益や手元資金で返済しきれなかった残債分と新居の購入費用をあわせた金額を融資してもらう仕組みなので、ローン返済を1本化してダブルローンによる返済の二重負担も回避することが可能です。
メリット2.自己資金にとらわれず、選択肢を増やせる
子どもの進学や両親の介護など、直近のライフイベントで大きな出費を控えている場合に、自己資金をなるべく手元に残しておきたいと考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。住み替えには大きな金額が動くため、これからの暮らしや将来のための資金計画を考慮したうえで、住み替えに使える自己資金の範囲を決める必要があります。無理なく住み替えを実現するためのひとつの選択肢として、住み替えローンの活用が検討できます。
デメリット1.金利が高く債務が高額になりやすい
住み替えローンは、一般的に高めの金利が設定されています。売却する住宅のローン残債と新居の購入費用の両方をまかなうために借入金額は高額になり、毎月の返済負担が大きくなったり、返済期間も長期になったりするので注意が必要です。
たとえば、多くの住宅ローン、住み替えローンは、完済時期が80歳とされているケースがほとんどです。とくに50代以降で長期間のローンを組む場合は、一般的な30年、35年の住宅ローンよりも返済期間が短くなるため毎月の返済額は自ずと高くなります。
さらに、歳を重ねるほどローン完済までの間に定年退職で収入が低下する可能性があるほか、医療費・介護費の増加などもあり得るため、考慮しておく必要もあります。
デメリット2.審査が厳しい
住み替えローンの審査は、通常の住宅ローンに比べて厳しい傾向があります。新居の購入に加えて現在の住まいのローン残債も加算され、借入額が本来の担保評価を上回ってしまい、万一返済が滞った場合に物件を差し押さえて売却しても残債を回収できない可能性もあり得るため、金融機関は借り手の信用や返済能力を慎重に評価します。
たとえば年収に対する年間返済額の割合は、一般的には30~35%が基準と言われていますが、住み替えローンの場合は数値基準が低くなり、借入可能金額がほかの住宅ローンなどと比較して低くなるケースがあり得ます。
デメリット3.自宅売却と新居購入の決済日を同日にする必要がある
住み替えローンを利用するには、自宅売却と新居購入の決済日を同じ日にすることが条件となります。これは、売却する家の抵当権抹消と購入する新居に抵当権の設定を行う都合上、同時に手続きをする必要があるためです。
自宅売却と新居購入のスケジュールを合わせなければならないので、調整に手間がかかります。住み替えローンを利用するときは、金融機関や不動産会社とよく相談して慎重に進めるようにしましょう。
住み替えローンの利用手順6つのステップと注意点
住み替えローンを利用するときの6つのステップと注意点を解説します。
ステップ1.売却価格とローン残債の把握
まず現在の住まいの売却価格とローン残債にどのくらいの差異があるか把握します。物件の売却価格を知るためには、不動産会社に査定を依頼しましょう。査定には机上査定と訪問査定がありますが、正確な価格を把握するには訪問査定を実施します。
また、すでに借りている住宅ローンの残債額も確認しましょう。年末に送られてくる住宅ローン残債証明で確認できますが、わからない場合はローンを組んでいる金融機関へ問い合わせるようにしてください。
ステップ2.不動産会社に住み替えローンの利用を相談する
売却価格とローン残債を比較し、住み替えローンの利用を検討する必要がある場合、まずは不動産会社に相談してみましょう。前述した通り、住み替えローンを利用するためには、自宅売却と新居購入の決済日を合わせる必要があります。売却先と購入先の不動産会社に事前に相談しておくことで、日程を調整しやすくなるでしょう。
ステップ3.各金融機関の住み替え(買い替え)ローンを比較・相談
住み替えローンの内容は、通常の住宅ローンよりも金融機関による違いが多いため、複数の金融機関の住み替えローンを比較します。そのなかで自分の希望と利用要件を満たすものを選びましょう。
とくに金利、返済期間、借入額、借入可能な年齢、手数料などは重要なポイントなので、しっかりとチェックしましょう。そのほかにも一般的な住宅ローンでは固定金利型と変動金利型を選択できるケースがほとんどですが、住み替えローンの場合、金融機関によっては変動金利型しか選択できないものもあります。
注意点
借入金額が大きくなりやすい住み替えローンの審査は、通常の住宅ローンよりも審査に通りにくい傾向があります。希望する金融機関の審査に通らなかったときに備え、第2希望、第3希望まで考えておくといいでしょう。
ステップ4.審査を受ける
選択した金融機関に対して、住み替えローンの審査を申し込みます。一般的に仮審査、本審査の順番で実施され、審査期間は仮審査が1週間ほど、本審査は1~2週間を要することが多いですが、審査に時間がかかることもあり得るので、期間には余裕を見ておきましょう。
住み替えローンの仮審査では、まず年収や勤務先、勤続年数、借入履歴、信用情報などが審査され、本審査では物件の担保価値、勤務形態、健康状態など、より詳しい情報をチェックされます。本審査に通ると、融資をしてもらうことができます。
ステップ5.金銭消費貸借契約締結
融資が承認されると、金融機関から金利、融資金額、返済期間などの条件が改めて提示されます。条件に問題なければ金融機関と金銭消費貸借契約を結び、その後、融資金額が指定の銀行口座へ送金されます。なお、融資金額が実際に入金される日を融資実行日といいます。
ステップ6.売却する物件の引き渡し/ローンの完済/住み替え先の物件の引き渡し
金銭消費貸借契約が締結されたら、引き渡しに向けた準備を行います。引き渡し日、契約書類や鍵の受け渡し方法を不動産会社などと調整しつつ、同時にローンの完済手続きも実施しなければなりません。
完済手続きには、金融機関とのやり取りや必要書類の提出が含まれるので、事前に準備しておきましょう。並行して、住み替え先の物件の引き渡しに向けた準備を進めます。
そうして決済日に売却代金と住み替えローンの融資金を合わせて住宅ローンを完済し、新居の購入に必要な費用を支払います。不動産会社や金融機関と連携し、必要な書類の手配や契約手続きを行います。引き渡し手続きが完了し、物件の所有権が移転します。
注意点
住み替えローンを利用したいと思っても、売却が想定通りにいかないこともあり得るため、その場合の対応を考慮しておくことが大切です。たとえば売却を依頼する不動産会社と売買契約書に「買い替え特約(注2)」を記載し、いつまでにいくら以上で売却ができなければ契約解除ということができ、他の方法も取れるように備えておくと安心です。
注2…自宅の売却が完了する前に新居の購入契約をする場合に定める特約。買主と売主の合意のもと、契約解除の内容を決定します
50代以上で住み替えローンを検討するとき
審査が厳しい住み替えローンですが、50代以上で住み替えローンを組むことも可能です。ただし、年齢が高齢になれば、返済期間が短く、毎月の返済額も高額になりやすいことから審査は厳しくなります。将来的に安定的な収入が見込めることに加え、そのほかの借入がないこと、健康状態が良好であることなども求められます。
とくに住み替えローンを検討する場合には、資金計画をより慎重に検討するべきです。仮に55歳でローンを組み、65歳で定年退職する場合、正社員として勤務できる期間は10年です。定年退職後も同じ年収を維持するのは困難なケースが多いため、退職金などで返済できる範囲に収めるのが理想です。
仕事を定年退職後も続けるかを含め、将来的に自分で賄える返済額はどのくらいか、よく考えたうえで資金計画を立てるようにしましょう。
住み替えローン利用シミュレーション
実際に子どもの独立をきっかけにマンション(住宅ローンあり)から部屋数の少ない中古マンションに引越す50代の夫婦をモデルケースとして、住み替えローンを利用した場合のシミュレーション例を紹介します。
なお、ローンは夫の名義で組むものとします。
【モデルケース】
- 家族構成:夫(会社員)55歳、妻(パートタイマー)50歳、子(独立済み)23歳
- 年収:夫680万円、妻120万円(世帯年収:800万円)
- 自己資金:300万円
- 住宅ローン残債:2,200万円
- 住み替え予定のマンション価格:2,500万円
- 現在の住宅売却予定額:1,500万円
住み替えローン利用前
まず住み替えローンを利用しない場合に不足する資金を算出します。
【支払い可能な金額】
- 住宅売却予定額:1,500万円
- 自己資金:300万円
- 合計:1,800万円
【支払い予定額】
- 住み替え予定のマンション価格:2,500万円
- 住宅売却費用:75万円(売却予定額×5%)
- 住み替え先マンション購入の諸費用:175万円(購入予定額×7%)
- 住宅ローン残債:2,200万円
- 合計:4,975万円
【不足する金額】
住宅を売却する場合、一般的に売却費用は売却価格の4~6%、中古マンションの購入費用は購入価格の5~10%が相場です。
上記の条件で計算した場合、この事例では住み替えをするのに、3,175万円が不足することがわかります。
住み替えローン利用時
では、住み替えローンを利用する場合で考えていきましょう。
【住み替えローン】
- ローン総額:3,175万円
- 金利:2%
- 返済期間:25年
- ボーナス払い:なし
上記の条件で金利を全期間固定型、元利均等返済を選択した場合、毎月の返済額は、約13万円になります。返済期間が25年間なので、55歳から80歳まで毎月13万円を支払い続けることになります。
返済金額が無理なく返済できるものかどうか確認するには、返済比率(年収に占める年間のローン返済額の割合)を調べる方法があります。一般的に返済比率が20%以下であれば無理のない返済金額とされているので、この数値に収まっているかどうかを見ていきましょう。
この事例では年間のローン返済額は、13万円×12ヶ月=156万円です。
世帯年収は800万円(夫の年収が650万円+妻の年収120万円)なので、返済比率は以下の数値になります。
【返済比率】
したがって、この返済金額であれば無理のない資金計画が立てられるでしょう。
しかし、定年退職後は夫の年収が減少することがほとんどであり、返済はやや厳しくなることが予想されます。退職金などで一定額の返済をするなど、資金計画を綿密に立てておくといいでしょう。
住み替えローンの借り入れを検討する際は、綿密な資金計画を立てましょう
住み替えローンは、所有している自宅を売却してもローンの完済ができない場合に検討できる便利な住宅ローンです。しかし、残債分と購入価格を借入できる一方、借入金額が高額になりやすいため返済計画は綿密に練らなければなりません。
住み替えローンは自宅売却と新居購入の決済日を同日に行う必要があるなど、手続きやスケジュール調整が難しい点もあり、利用の際には信頼できる不動産会社やローンを借り入れる金融機関、ファイナンシャルプランナーなどに相談のうえ、計画的に進めていきましょう。
※この記事に含まれる情報の利用は、お客さまの責任において行ってください。 本記事の情報は記事公開時のものであり、最新の情報とは異なる可能性がありますのでご注意ください。詳しくは、「サイトポリシー」をご覧ください。
※当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。
※個別事案については、専門家へのご相談をお勧めします。