遺産相続でよくあるトラブルの事例。原因と対処法を解説

2023.06.20

遺産相続では、仲が良かった家族の間でも揉めてしまうケースがよくあります。相続人同士で揉めることは、遺産を残す方(被相続人)にとっても非常に残念なことです。できる限り相続トラブルを避けるためにも、事前の予防策を講じておきましょう。

ここでは、遺産相続においてよくあるトラブルの例をあげ、その原因や対処法について解説します。遺産を残す方と相続する方、双方が事前に準備をして、相続トラブルのリスクを抑えましょう。

どの家族にも起こりうる相続問題

どの家族にも起こりうる相続問題
相続トラブルは、どんなに関係が良好な家族の間でも発生する可能性があります。「令和3年 司法統計 家事編(PDF)」によると、2021年中に終局処理がなされた遺産分割事件数(遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所における調停・審判・訴訟に発展した事件のうち、何らかのかたちで終了したもの)は、1万3,000件以上となっています。

また同資料によると、2021年中に請求認容または調停成立によって終了した6,996件の遺産分割事件のうち、約33%が遺産総額1000万円以下で、約44%に当たる3,052件が5,000万円以下です。このデータからは、相続トラブルの実に3/4以上が5,000万円以下の遺産相続で起きていることがうかがえます。相続トラブルは富裕層だけのことであって自分は関係ない、そう思っていても実際には、富裕層でなくとも多くの人がトラブルに直面するという現実があります。

相続が生じた場合、問題となるのは金額だけではありません。長く住み思い出が深い実家を誰が相続するか、など家族間のさまざまな感情のもつれが生じることもあります。

相続トラブルが起きないように、よくある相続トラブルのパターンを解説します。ご自身の家庭ではどのようなトラブルが想定されるのか、それを防ぐためにはどうすればよいかを、できればご家族で考えておきましょう。

よくある相続トラブル

相続トラブルのよくあるパターンとしては、以下の例があげられます。

(1)遺言書の内容が不公平
(2)生前贈与が行われている
(3)介護の負担が偏っている
(4)不動産の分割方法で揉めてしまう
(5)遺産分割協議に参加しない人がいる

以下で詳しく見ていきましょう。

遺言書の内容が不公平

遺言書を作成すると、遺産の相続方法を自由に決められます。
しかし、遺言書の内容があまりにも偏っている場合(例:1人の相続人がすべての遺産を相続するなど)、遺産を十分に受け取れなかった相続人から不満が出る可能性もあります。場合によっては相続人の間で遺留分侵害額の請求(注1)が行われ、深刻な相続トラブルが発生する事態になりかねません。

注1…故人の兄弟姉妹以外の相続人が、遺留分に満たない額の遺産しか取得できなかった場合に、遺産を多く取得した者に対して不足額の支払いを請求すること

生前贈与が行われている

亡くなった被相続人の生前に、一部の相続人だけが多額の生前贈与を受けているケースもよく見られます。

この場合も、遺言書の内容が不公平なケースと同様に、財産を十分に取得できなかった相続人から不満が出て、トラブルに発展する可能性が高いです。生前贈与については、遺留分侵害額の請求のほか、遺産分割における特別受益(注2)も問題になり得ます。

注2…亡くなった被相続人から特別に受けた贈与。遺産分割において、特別受益を得た相続人の相続分は特別受益相当額が考慮されます。たとえば、遺産1,500万円を子どもA、B、Cで相続する場合、通常だと500万円ずつ3等分となります。ただし、Aが生前に600万円の贈与を受けた場合、遺産を1,500万円+600万円=2,100万円と考えて3等分します。Aは生前贈与の600万円と遺産相続での100万円、BとCは遺産相続で700万円になります。

介護の負担が偏っている

亡くなった被相続人の介護を一部の相続人だけが担当し、その他の相続人は全く介護をしなかったというケースもよく見られます。この場合、介護を担当した相続人としては、苦労した分遺産を多めに相続したいと考えるかもしれません。民法上も、介護による貢献を考慮して、寄与分(注3)が認められる可能性が高いです。

しかし、寄与分の有無や金額の計算方法については、考え方が一つではないため、相続人間で争いになってしまうケースがよくあります

注3…相続財産の維持・増加に貢献した相続人に認められる。遺産分割において、寄与分のある相続人の相続分は増える反面、その他の相続人の相続分は減る

不動産の分割方法で揉めてしまう

不動産を相続するケースにおいて、相続人が複数いる場合には、不動産の分割方法を話し合う必要があります。不動産の分割方法は、以下の4通りです。

(1)現物分割
不動産を物理的に分割する方法です。土地を分筆したうえで各筆を相続する場合などが現物分割に当たります。
(2)代償分割
一部の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う方法です。
(3)換価分割
不動産を売却したうえで、代金を相続人間で分ける方法です。
(4)共有分割
不動産を複数の相続人で共有する方法です。現物分割や代償分割と組み合わせる場合もあります。

しかし、誰が不動産を取得するのか、代償金はいくらにするのかなどについて、相続人間で揉めてしまうケースが少なくありません。特に、不動産は高額資産なので、分割方法について揉めてしまうと深刻なトラブルになることが多いです。

遺産分割協議に参加しない人がいる

遺産分割協議は原則として、相続人全員が参加しなければ進めることができません。しかし、一部の相続人が行方不明である、または遺産分割協議への参加を拒否しているなど、相続人全員での遺産分割協議ができないケースもあります。

遺産分割協議に参加しない相続人がいる状況では、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てることが有力な解決策です。不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得ることで、相続人本人に代わって遺産分割協議へ参加できます。

相続トラブルを避けるための方法

相続トラブルを避けるための方法
相続トラブルを避けるためには、できる限り事前に予防策を講じておくべきです。具体的には、以下の予防策を講じることが考えられます。

遺言書・生前贈与に関する相続トラブルの予防策

遺留分に関するトラブルを避けるため、偏った内容の遺言書を作成することや、一部の相続人にだけ多額の生前贈与をすることは避けるのが望ましいです。
生前贈与に関する特別受益については、あらかじめ遺言書で(適切な)相続分を指定すれば、遺産分割トラブルのリスクを抑えられます。

寄与分(介護など)に関する相続トラブルの予防策

寄与分についても、あらかじめ遺言書で(適切な)相続分を指定すれば、遺産分割におけるトラブルを防げます。特に介護を担当した相続人には、その苦労に配慮する意味でも、やや多めに相続分を指定することが望ましいでしょう。

不動産に関する相続トラブルの予防策

不動産の分割方法に関する争いを防ぐためには、遺言書であらかじめ分割方法を指定することが効果的です。また、不動産の売却がスムーズに進まないケースもあるので、早めに不動産業者へ相談しておくとよいでしょう。

不動産売却は、大きく分けて仲介と買取の2つの選択肢があります。以下で不動産の売却方法について解説しています。

遺産分割協議への不参加に関する相続トラブルの予防策

できる限り相続人全員の連絡先を把握し、機会があれば相続について会話をしておきましょう。そうすることで、実際に相続が発生した際、スムーズに遺産分割協議を始めやすくなります。

みんなが納得できる相続を

みんなが納得できる相続を
相続トラブルを避けるためには、できる限りすべての相続人が納得できるかたちで、遺産の分け方を決めることが大切です。

実際に相続が発生してから対処するよりも、生前の段階から対策を講じる方が、相続トラブルのリスクを抑えられます。遺言書の作成や、不動産売却に関する不動産業者への相談などを通じて、遺産相続を見据えた対策を検討しておきましょう。

不動産を相続するときの流れ・手続きに関しては、下記の記事で説明しています。


阿部 由羅

執筆者

阿部 由羅
弁護士

ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。

会社ホームページ:https://abeyura.com/
Twitter:https://twitter.com/abeyuralaw

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